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◯初めての方にお勧めの記事!

辻村深月著「冷たい校舎の時は止まる」感想(ネタバレ注意)

~はじめに~

本日ご紹介するのは、辻村深月著「冷たい校舎の時は止まる」である。本作は辻村氏のデビュー作にして2004年にメフィスト賞を受賞した傑作である。本日はその魅力について語りたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 

 

 

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~あらすじ~

雪の降りしきるある日、いつも通り登校した男女8人。しかし学校に着くと他には誰もおらず、しかも窓や扉が開かず閉じ込められていることが分かる。そしてこの状況は2ヶ月前の学園祭の最終日に自殺した同級生が関係していると考え始めるが、だれもその同級性の顔や名前が思い出せない。誰が自殺したか。ここに閉じ込めたのは誰か。

 

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①死者が混ざっている?

校舎に閉じ込められた8人。校内を捜索する内に担任の机の上にクラス委員のみんなで取った集合写真を見つける。しかしなぜかその写真を見たときに強烈な違和感を覚える。後で振り返ってみると、集合写真で担任の榊を囲む生徒が7人しかいなかったのである。しかしその写真はクラス委員全員で撮ったはずなのだ。そう、ここにいる8人全員で。一人足りない。そして、ここにいる全員が2ヶ月前の学園祭で自殺した同級生の顔や名前を思い出せないという事実から彼らは、この中の誰かが自殺した当人であり、その人が自分たちをこの世界に閉じ込め、生きていた頃を懐かしむか何らかの恨みを晴らそうとしているのではないかと考える。もちろん自殺した当人の記憶も改変されており、自分が死者であることは認識していない。自分たちの中に死者が混ざっているかもしれないという状況は、殺人犯が混ざっているかもしれないといった設定などよりもよっぽど不気味で、クローズドサークルとなっていることも相まって読者に底知れぬ恐怖を与えていく。ちなみにこの、クラスの中に死者が混ざっているという状況、私は綾辻行人氏の「Another」にすごく似ていると思う。しかも辻村氏は綾辻行人氏の大ファンであり、辻村の辻の字も綾辻氏から取ったものらしい。2人の作家の趣味や考え方が似ているため近い世界観を持つ作品ができあがったのかもしれない。

 

 

②ひとりまたひとりと消えていく

閉じ込められてしばらく、8人には特に何も起こらず、受験前に時間が与えられてラッキーだと感じる者すらいた。しかし、その中の一人が血と石膏の人形を残して消えたのをきっかけに事態は急変する。5時53分で止まっていた時計が動き出し、再び5時53分を指す度に誰かがいなくなるのである。それはこの世界を創った人が8人に復讐しようとしているように思われた。思い出して、自分の罪をと。しかし彼らには心当たりもなく、また自殺したのが誰かも思い出せない。そんな中無慈悲に一人、また一人と消えていくのである。連続殺人小説で被害者が犯人から決して逃れられないように、彼らもこの世界の意思から逃れることは決してできず、消えていってしまう。何も分からないまま消えていく者、立ち向かって消えていく者、自ら選んで消えていく者などその形は様々である。最後に残る者がおそらく学園祭の日に自殺したこの世界にみんなを閉じ込めた者だろうと彼らは考える。最後に残るのは誰か。自殺したのは誰か。予想外の真相が読者を待ち受けている。

 

③衝撃の解決編

本作品では、謎が明らかになる「解決編」の前に、「読者への挑戦状」ならぬ「解答用紙」が突きつけられる。推理小説ファンであればきっとここでいったん止まって、これまでの話を整理したり読み返したりして真相を見抜こうとするだろう。しかし果たしてどれだけの方が本作の真相を見抜いただろうか。私は40%程といったところであった。自殺した人とこの世界に8人を閉じ込めた人が違う人物ではないかというのは序盤にそのように誘導する文章があったので薄々感づいてはいたし、自殺したのは8人の中の誰かではないだろうという事も予想はしていた。そしてこの世界を創り出したのは、8人の中で最も自分を追い込みやすい性格で、ちょっと前まで親友だった者からのいじめに近い仕打ちで重度のうつ病・拒食症に苦しんでいた深月であることもおおよそ想像通りであった。しかし、8人の同級生の中の一人・菅原が担任の榊と同一人物だと誰が予想できたであろうか。菅原の中学時代の回想シーンで出てきた幼い少年・ヒロが8人の内の一人である博嗣であり、その子と一緒に居た幼い女の子・みーちゃんが深月であるなどさっぱり分からなかった。榊のフルネームが菅原榊であると明らかになるシーンは、正に綾辻氏の某作品における「ヴァン・ダインです」に近い衝撃であった。さすがは綾辻氏をリスペクトしている辻村氏である。

 

④深く考えさせられる作品

本作はミステリ小説として秀逸であることはもちろん、人生や人間関係などについても深く考えさせられる作品となっている。登場する8人の高校生は皆県内有数の進学校に通う頭の良い生徒達なのだが、実は皆それぞれに悩みを抱えていた。物語の核となる深月と元親友との確執や家庭の事情、過去の後悔や将来についてなど様々である。それらは学生故の悩みとも言えるし、我々大人にも当てはまるような部分もあり、自分の過去や未来について考えさせられる内容となっている。自分だけでなく、周りの特に悩みや苦悩を抱えていなさそうな人であっても、内面を他人が計り知ることはできず、実はどうしようもないほど深く悩んでいることもあるのかと思うと、私は無力感を感じてしまう。本作を読んでどのような思いを抱かれるかは読者によって様々だろうが、何か心に残る者があるのではないだろうか。

 

 

 

 

~最後に~

本作は恐怖と謎と悲しみに満ちた作品である。真夏にご紹介してしまったが、冬に読んだ方がより楽しめるかもしれない。ご興味のある方はぜひこの冬読む本に加えていただければ幸いである。

 

 

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