東野圭吾著「十字屋敷のピエロ」感想(ネタバレ注意)
~はじめに~
本日ご紹介するのは、東野圭吾著「十字屋敷のピエロ」である。本作は東野氏の推理小説作品の中でも人気が高い作品である。本日はその人気の秘密を語っていきたい。
以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい。
~あらすじ~
ある十字の形をした屋敷に置かれたピエロ人形。その人形は手に入れた物が必ず不幸になるという曰く付きの者だった。そして彼は見ていた。この屋敷の人々が不幸にも死んでいく様子を。もちろんピエロ人形は喋れないが、読者に見たことを教えることはできる。ピエロの証言から見えてくる事件の真相とは。
~おもしろいポイント~
①ピエロ視点の証言
この作品の最たる特徴は、人形であるピエロ視点での目撃証言が所々で挿入されているところである。もちろんピエロは誰の味方でもないので、少なくとも自分が真実と思っていること、見たままのことを話す。登場人物が嘘をつきまくる状況で、ピエロの証言のみが唯一信じられるヒントであり、読者はこのヒントを元に推理していくこととなる。ただしご注意を。ピエロは故意に嘘をつくことはないが、語っているのが事件の真相とは限らない。彼は見たままのことを言うのである。ピエロの勘違いと明らかに怪しい十字の形をしている屋敷により作り出されるトリックが、読者を騙しに来るのでご注意を。ただ、本作の魅力はそのトリックだけではなく・・・。
②どんどん変わる状況と衝撃の真相
推理小説では、物語が進むにつれて謎が謎を呼び、終盤に掛けてそれらが一気に繋がって真相が明らかになる、という流れを特に本格推理小説では多く見かけるように思う。これにより真相が明らかになったときに爽快感を味わうことができるが、読者によってはじれったく思う方もいるだろう。しかしながら本作では物語の途中で、十字屋敷という特殊な現場とピエロの勘違いにより作り出されたメイントリックが明らかにされるため、飽きることなく読み切ることができるように思う。途中でメイントリックが明らかにされたらそれ以降はつまらなくなるようにも思うがご安心を。この作品最大の魅力は最後の最後に待っている。メイントリックが明らかになったことを皮切りに、見かけ上の犯人が終盤に明らかになっていくのだが、彼女は実行犯とでも言うべきで実は裏で糸を引いている真犯人がいるというどんでん返しが待っているのである。そして、もちろん意外なその真犯人の存在は驚きで、やられたと思ったのだが、更にそれ以上に、その真相を登場人物達は知らず、真犯人の呟きを聞いていたピエロ人形だけがその真相を知っているという設定がなんとも言えず不気味である。この驚きだけでなく妙に背筋が冷たくなるような真相がこの作品が東野氏の推理小説作品の中でも高い人気を誇る要因であろう。
~最後に~
本作は、東野作品ということもありミステリ初心者にも読みやすく、また他の推理小説にはない独特な魅力のある作品である。ミステリ初心者の方も普通のミステリに飽きた方もどちらもお楽しみいただけるだろう。