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◯初めての方にお勧めの記事!

森博嗣著「女王の百年密室」感想(ネタバレ注意)

~はじめに~

本日ご紹介するのは、森博嗣著「女王の百年密室」である。論理的で現実的なストーリーを好む森氏には珍しく、SF要素を多く含んだ作品である。内容は推理小説というには推理要素は少ないが、魅力的な謎にあふれた物語である。本日はその魅力について語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



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~あらすじ~

近未来。ナビの故障で道に迷ってしまった主人公。森の中で見つけた街は100年間外界から隔離されておりながら、皆が不満なく暮らしていた。主人公が謁見した女王はその街では100年間だれも死んでいないと話す。100年間誰も死なないこの街の秘密とは。この街は何のために誰が作ったのか。

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①神が創りし街

 この街では神の存在が信じられている。女王は神の声を聞き街の人に伝える役割を持っており、主人公が来ることや名前も神が教えてくれたという。但し「目にすれば、失い、口にすれば、果てる」と街の人達は信じており、神を見ることも語ることも決してしない。このことが、物語中盤で起きる殺人事件の真相を隠し、物語全体を不確かなものにしている。主人公はあくまで神の存在は信じておらず、殺人事件の犯人を捜し続けるのだが、この街の住人は神に関することについては頑として語ろうとしない。果たして神の正体とは。殺人事件にどう関与しているのか。最後の最後に明らかになる真相はぜひ読んで確かめていただきたい。

 

現代社会の常識が通用しない世界

 この街では100年間誰も死んでいない。その真相は、大ケガをした者や心肺停止した者(通常の認識で死んだ者)はいわゆるコールドスリープ状態にされ、冷凍保存されるためだ。街の人曰くそれは死ではなく長い眠りに就いただけで、いつか治療が可能になった暁には再び目覚めることができると信じているのである。そのため、この街の住人にとって最も恐るべきことは(通常の認識での)死ではなく、眠りに就かせてもらえないことなのだ。従って、この街の住人にとって殺人は全く「割に合わない」のだ。つまりは、相手を殺しても長い眠りに就くだけで殺すことはできず、代わりに殺した側は罰として長い眠りに就く権利を奪われるかもしれないからだ。このことから、この街には警察や殺人を禁止する法律はないが、殺人などする者はいないと信じている。また、通常我々の感覚からすれば、殺人を犯した者は捕まえて罰しなければならないと考える者が多いだろうが、この街の住人からすればなぜそんなことをする必要があるのか、なぜ捕まえないとその者が続けて殺人を犯すと考えるのか理解できないのである。このように、この街では死や殺人に関する考え方が通常とは異なっており、そんな街で起きた殺人事件は困惑以外の何物でもなかった。何が正しいかは分からないが、普段当たり前と思っていることを再考察させてくれる機会を与えてくれるという点で貴重な体験となった。

 

 

③主人公の過去

 この物語は、過去に恋人を殺人犯に殺されており、自分も重傷を負わされていた。物語の序盤でその殺人犯がこの街に住んでいることを知り、主人公は強く動揺する。主人公は殺人犯を強く憎んでおり殺そうと考えていたが、再会した殺人犯はこちらのことを覚えておらず、改心しているようにさえ思えた。このことで主人公は悩んでいたが、物語後半で自体は動きだし、最終的に主人公は殺人犯を殺し復讐を果たすのだが、主人公が満たされることはなかった。また、物語最終盤では主人公の隠された秘密も明らかにされ、そのこと自体は謎解きとは関係はないのだが、読む者に驚きを与えてくれる。

 

 

 

 

~最後に~

最初に述べたとおり、本作品はミステリ要素は少ないのだが、現実を忘れさせてくれるような設定とストーリーである。ミステリ小説を読む方は少なからずその非現実性を楽しむ方も多いと思うので、きっとミステリ好きの方も楽しんでいただけることだろう。

*体調不良により更新が遅れて申し訳ありません。

 

 

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