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◯初めての方にお勧めの記事!

相沢沙呼著「medium 霊媒探偵城塚翡翠」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは、相沢沙呼著「medium 霊媒探偵城塚翡翠」である。本作は第20回本格ミステリ大賞をはじめ、多くの賞を獲得した作品である。最近文庫化されて拝読したので、その魅力について語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

推理小説家の香月史郎は、犯罪者の心理に対しての鋭い洞察や人物描写により警察から捜査協力を頼まれることがあった。ある日彼は、友人を介して霊媒城塚翡翠と出会う。はじめは霊媒を信じていなかった香月であったが、彼女の超常的としか思えない発言により霊の存在を信じるようになり、霊媒推理小説家の異色のコンビが結成される。翡翠の霊視と香月の論理付けにより二人はいくつもの難事件を解決していくのだが…。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①特殊設定ミステリかと思いきや

 本作は4つ事件~構成されている。霊媒翡翠と出会った香月は、翡翠が霊視した犯人や証言を現実の捜査に落とし込んで論理的に犯人を指摘していく。物語終盤までそういった感じであるため、いわゆる「特殊設定」をミステリに持ち込んだ物かと誰もが思うだろう。しかしそれこそ作者の思うつぼ。実は翡翠は霊視などできないのである。霊視が存在しないこと自体は一般的な常識からすれば何ら驚くべきことではないのだが、翡翠は3つの事件で、どう考えても霊視したとしか思えないような発言や指摘を何度も繰り返しており、香月はもちろん読者も翡翠は霊視できるという設定なのだと思い込まされていくのである。実は翡翠は奇術師であり、超優秀な探偵であるというのが真相で、霊視していたかに思われた発言は、全て翡翠の推理によるものだったのである。作中で翡翠自身も語っているが、近年特殊設定のミステリが人気を博しており(かく言う私もSFミステリなどが大好き)、今回もそのパターンかと思わせて最後にどんでん返し。ミステリの発展に終わりはないと思わせてくれる作品である。

 

②真実は一つ。しかし解法は一つではない。

 本作で起きる3つの事件に対して、まず香月が翡翠の霊視と残された状況・証拠から論理的に犯人を絞り込み、逮捕に導く。霊視によって犯人が分かった状態で、そこに辿り着く道筋を考えていくという倒叙的なやり方ではあるが、論理は明確であり、読者も納得する解法の一つが示される。しかし終盤、翡翠は実は霊視しておらず、推理によって犯人を特定していたことが明らかになり、翡翠がどのように犯人を明らかにしたかが語られる。犯人だけでなく、犯行の手口なども全て明らかにされた上で「探偵がこの時点においてどうやって犯人を特定し得たか」を読者が推理するのである。もちろん翡翠の推理も論理的であり、むしろ犯人ありきでこじつけに近かった香月の推理よりスマートな内容である。このように本作では一つの真相に対して解法が2つ示されており、読者は同じ事件で2回も推理を楽しめるという構成になっている。

 

 

③人間の心理を突く

 作中で翡翠が語っていることだが、人は何か謎や秘密を一つ知ると、なぜかそれ以上隠されていることはないと思い込んでしまう傾向があるようだ。本作でも、3つの事件で探偵役だった香月が連続殺人犯であると言うことは途中でなんとなく分かっていたが、いわゆるワトソン役とも言うべき翡翠が探偵でしかもこれまで霊視してきたことが全て推理だったとは全く思いも及ばなかった。始めに会ったとき気が強い霊媒師だった翡翠が実は世間知らずのドジなお嬢様であると知ったとき、それが計算されたものだとまでは気付かなかった。本作の終盤で語られていることだが、こうした人間の真理を突いてくるような仕掛けが本作の最大の魅力である。そしてこうした表現は、本書の解説で漆原氏が語られているように、著者自身がアマチュアマジシャンであることに由来すると思われ、他の方の作品にはない特徴と言える。

 

 

 

 

~最後に~

本作は、多くの賞を受賞した作品と言うことで手に取ってみたが、想像以上に満足感の高い作品であった。「すべてが、伏線」というキャッチコピーもあまり期待していなかったが、読み終わった今は見事と言うほか無い。ぜひ多くの方に読んでいただきたい作品である。

 

 

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