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◯初めての方にお勧めの記事!

神永学著「青の呪い 心霊探偵八雲」を語る(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは神永学著「青の呪い 心霊探偵八雲」である。本作は心霊探偵八雲シリーズの一作で、講談社文庫50周年記念特別描き下ろし作品となっている。心霊探偵八雲シリーズは初見である。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

主人公・琢海はある日「君」と偶然の再開を果たし、昔の記憶を思い出した。

琢海は幼い頃に事故で両親を亡くし、妹と共に叔母さんの元で暮らしていた。高校に入学し、妹のためにバイトに励んでいた彼だが、美術室にある絵に関する噂話や斉藤八雲や両親を亡くし悲しみに暮れていた自分を助けてくれた女性との再会との出会い、そして学校での殺人事件発生により、生涯忘れることのない事件に巻き込まれていく。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①特殊設定ミステリー

 帯にも書かれている通り、本作は高校での青春時代の思い出と、特殊設定下でのミステリーの話である。特殊設定とは斉藤八雲の「霊が視える力」と琢海の「サウンドカラー共感覚」のことで、主には後者が大きく関わってくる。サウンドカラー共感覚とは他人の言葉が色がついて見えるもので、特殊設定ではあるが現実に存在する。琢海は人によって色が違うだけでなく、その人の感情によって色の形が変わったり、嘘を付くと色が黒になったりなど、他人の発する声から様々な情報を得ることができた。そのため、言葉の色から相手の感情を推し量ってしまう癖があり、本作中で発生する事件にも大きく関与してくる。相手の嘘がわかるため、琢海はある人を犯人だと疑うようになり、読者もそのように思い込まされていく。しかしながらこれこそが著者の罠であり、スリードとなっているのである。割と露骨にミスリードしてくるため、恐らく多くの読者はミスリードされている事には気付くのではないかと感じた。また、事件の真相も丁寧にヒントを散りばめていたため、それほど驚きはなかったが、そのプロットの組み方は流石にうまいと感じた。

 本文中でも述べられている通り、サウンドカラー共感覚により、他人の感情がある程度見えてしまうが故にそれに頼ってしまったことが琢海の過ちであり、思い違いによる暴走へとつながってしまった。このことは琢海だけでなく、一つの側面だけで物事を判断してはならないとの、私達に対する教訓にもなっている。

 

 

 

②青春ミステリー

 本作のもう一つの側面である「青春」も事件に大きく関与してくる。琢海を始めとする登場人物たちの恋心や嫉妬心が物語の行方を大きく左右していくのである。また、プロローグで「君」との再会を果たしたが声をかけられず恋を諦めたかのような描写があり、その次の場面で初恋の人との思い出が語られるため、てっきり「君」とはこの初恋の相手で、思い出の中の恋は実らなかったのだと思い込まされてしまった。しかしプロローグで語られるように、実は「君」とは斉藤八雲のことであり、初恋の相手・真希は恋人として隣りにいるというオチになっている。本章の中では暗く辛い悲しい物語が多かっただけに、彼らが現在幸せに過ごしている姿は読者にとって救いとなり、心地良く読み終わらせてくれた。

 

 

 

 

 

~最後に~

 本作は、ミステリーの難易度としては優しめであるが、青春の物語を含めた全体としては読みやすく完成度の高い作品だと感じた。私のように斉藤八雲シリーズを知らない方でも十分楽しめるので、ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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