~はじめに~
本日ご紹介するのは辻村深月著「傲慢と善良」である。ミステリではないが個人的に心に刺さったものがあるので感想を述べたいと思う。
以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい。
~あらすじ~
ある男の婚約者が結婚直前で失踪した。婚約者は以前からストーカーの被害を訴えており、男は警察に相談するが確証がなく捜査はしてもらえない。男は自分で手掛かりを探し、婚約者の関係者をあたっていくが・・・。
~おもしろいポイント~
①傲慢
本作ではタイトルにもなっている通り、婚約者の失踪を調べる過程で人の傲慢と善良が晒され、考えさせられることとなる。特に人の傲慢さに関する記述が多く、例えば男の結婚に対する考えであったり、婚約者の母親の娘に対する態度であったり様々な立場の人の傲慢さが垣間見える。しかしながらこの傲慢さは決して意図した悪意があるものばかりではなく、本人にとってはむしろ善意であったり何気ない行動であったりするのがたちが悪い。読んでいる側としても普段の自分の行動が果たして他人から見て傲慢でなかったと言い切れるのかと考えさせられる。
②婚活・結婚に対する考え方
本作の主人公の男とその婚約者は、お互い結婚相談所やマッチングアプリで婚活を重ねた後出会い、婚約に至っている。物語の中では婚活中の苦しい心境が語られており、他人に点数をつけてしまうような苦しさや何が結婚の決め手なのか自分でもわからなくなってしまうなど、他人にはわからない苦しみが描かれる。婚約者の失踪自体も婚活中のこうした苦しみが原因の一つとなっており、物語を通じて婚活・結婚について考えさせられる。婚約者の母親の娘の人生への干渉や男の友人の発言、男側・婚約者側の視点からの描写など同じ出来事であっても人によって感じ方は様々であり、視野を広く持って相手の立場になって考えることが傲慢にならないための第一歩なのだと感じた。
~最後に~
中盤までは個人的に思うところもありやや重たい物語であったが、終盤になるにつれて心休まるストーリーになっていき、ラストの内容的にもより終わりはすっきりとすることができたと思う。気になっている方はぜひ。