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◯初めての方にお勧めの記事!

薬丸岳著「蒼色の大地」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは薬丸岳著「蒼色の大地」である。前記事に続き、本作も「螺旋プロジェクト」という8作家による「共通のルール」によって繋がった作品を一斉に作るという新たな試みの中の一作である。2005年にデビュー作「天使のナイフ」で江戸川乱歩賞を受賞した実力者がこのプロジェクトでどのような物語を紡ぐのか楽しみな作品だ。

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以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 

~あらすじ~

 明治の時代、日本は開国しイギリスから軍艦を購入するなど海軍の近代化・強化を進めていた。海軍の新たな拠点がある呉では瀬戸内海に跋扈する海賊掃討作戦が計画されていた。一方瀬戸内海のとある島では、様々な差別で本土を追われた者たちが身を寄せ合って暮らしていた。 

 

 

~おもしろいポイント~

①人間同士の対立・差別について

 本作を含む螺旋プロジェクトでは、共通のテーマとして海族と山族の対立が描かれる。もちろん本作でも海族と山族の対立が中心に描かれ、政府の実権を握っている山族の人間によって、青い目を持つ海族は青鬼と呼ばれ差別されている。しかしながら海族と山族の対立はあくまでわかりやすい一例に過ぎず、人々は様々な理由で他者を差別し、本土を追われたものが瀬戸内海のとある島で身を寄せ合って暮らしている。明治という世の中が大きく変動した時期を描いた作品であり、また意図的に対立をテーマとしているということもあるが、こうした人間同士の対立というものは何も作品の中だけのものではなく、現在においても人々は自分たちと他者との間に違いを見つけてはそれを理由に争い続けている。作中で争いをなくすことはできないのだろうかという問いに対して、そこに二人の人間がいる限り争いはなくならないのだろうとの発言もある。螺旋プロジェクト全体を通して考えさせられるテーマであるが、人と人との対立について現実を見つめなおすいい機会になった。

 

三者三様の立場・葛藤・決断

 本作では、青い目故に差別され村を追われて海賊の一員となった海族の青年・灯、証と同じ村で暮らしていたが灯に好意的な印象を持っていた山族の少女・鈴、鈴の兄で海軍に所属している新太郎の主に3人の目線でかわるがわる語られる。鈴と灯は山族と海族で本来対立する関係にあるが、二人は互いに好意を持っている。新太郎と灯も対立の感情は持っていないが、海賊の灯と海軍の新太郎は立場上対立する関係にはある。三人はそれぞれの立場(海族・山族、海賊・海軍)に縛られながらも自らの思いを信じて抗い、海族と山族、海賊と海軍の対立を阻止しようと、自らの運命に抗って奔走する。たとえ対立しあう運命にある者同士であっても、対立せず争いを避けることができるのかが本作の見どころの一つとなっている。

 

 

③他の螺旋プロジェクト作品との関わり

 本作でも他の螺旋プロジェクト作品と共通する場面や物が登場する。海賊のことを鯨と呼んだり、カタツムリが象徴的に登場したり、海老沼が登場したりなど他の作品を読んだ方にはちょっと気になるものや場面が盛りだくさんだ。山族と海族両方の特徴を持つ審判と呼ばれるものも登場するが、途中まで審判でない者が審判のように描かれており、本来中立のはずの審判なのにと少し奇妙に思う方もいるだろう。雑誌で同時連載されていた頃に読んでも比較して楽しかっただろうが、すべてが完結している現在にそれぞれの螺旋プロジェクト作品を比較してみるのもおもしろい。

 

 

 

~最後に~

 本作は割と長めの作品ではあるが、ストーリー展開が早く文章も読みやすいためすらすら読みやすい作品であった。タイトルとなっている「蒼色の大地」がどういったものを意味するのかもぜひ考えながら読んでみていただきたい。

 

 

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