おもしろいゲーム・推理小説紹介

おもしろいゲーム・推理小説紹介

推理小説、マンガ、ゲームなどの解説・感想

◯初めての方にお勧めの記事!

東野圭吾著「希望の糸」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは東野圭吾著「希望の糸」である。本作は刑事・加賀恭一郎が登場するシリーズの一作である。私自身このシリーズをすべて読んでいるわけでもなく本作でも加賀がメインで活躍するわけではないので、東野圭吾の一作品として読んでみた。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 



 

~あらすじ~

 複雑な事情を抱えたいくつかの家族。ある家族では子供を地震の事故で亡くし、ある家では死に際の父が衝撃の内容の遺言書を残し、そしてあるところでは子供ができないことで離婚を決意した。一見何のつながりもないそれぞれの物語が、ある殺人を機に動き出し、絡み合っていく。

 

 

~おもしろいポイント~

①家族・血のつながり

 本作は家族の繋がり・家族愛や、血のつながらない家族の葛藤など、家族をテーマとして語られている。あらすじに書いた通り、それぞれの家族がそれぞれに非常に複雑な事情を抱えており、私たちでは想像が及ばないような苦悩を抱えている。特に大きな出来事としては、二組の夫婦が不妊治療を同じクリニックで行っていた際、医師が受精卵を誤って違う母親に移植してしまうというものだ。もちろん現実ではこういった事故が起こる可能性は低いが、人間が行っている以上ゼロではないだろう。そしてこの事故により、受精卵を移植された側は血のつながらないお腹の子を産み育てていくのか否かという選択と生涯にわたる苦悩を味わうこととなり、もう一方の夫婦は子供ができず結局離婚して別々の人生を歩むことになるのである。

 もちろん子供を求めない夫婦の在り方というものも存在するし、価値観は人それぞれであるが、やはり子供を求める夫婦にとって子供の存在というのは非常に大きい。特に上記の事故にあったうちの片方の夫婦は子供二人を事故で亡くしており、子供に対する期待や希望の大きさは計り知れなかったこともあり、この事件が大きな尾を引くこととなる。

 一方で重要なのは子供側の意見である。子供はもちろん親の所有物でもなければ親の願望・希望を満たす道具でもない。親はそのことを十分に認識して子供を尊重する必要があるが、子供を心配する気持ちや愛情が逆に子供を縛り苦しめることもある。特に本作に登場する事故で子供を亡くした夫婦は当然次の子供は大切にしようとするが、そのあまり子供は不満を膨らませていき、その関係はぎくしゃくしたものとなってしまう。

 本作の中だけでも非常に様々な事情を抱えた家族が登場するように、家族の事情・あり方は無限に存在し正解はない。そして本作では帯に書いてある通り、それぞれが「本当の家族」を求めた結果、悲しい事件へとつながっていく。

 

②希望の糸

 前述のとおり、「本当の家族」を求めた者たちにより、ついには殺人という悲しい一つの結末がもたらされるのであるが、同時に別の家族ではタイトルにもなっている通り、家族の繋がりが「希望の糸」となって人々に希望をもたらす。

 末期がんで余命いくばくもない父の遺言書に知らない弟の存在が記されていることを知った娘は、悩んだ末に連絡を取ることにする。弟側も父はすでに亡くなったと聞かされており、しかも父の住む場所とは縁もゆかりもなく、いったいどのようなつながりがあったのか母に問い詰めるが母は語ろうとしない。自分の出生の秘密を解き明かしたとき、そこには意外だが確かに愛のある物語が隠されていた。

 父に見知らぬ子がいると聞くと、父が不貞を働いていたと想像してしまうが、今回の場合は妻側にも深い事情があり、どちらも「本当の家族」を追い求めた結果であった。もちろん子供にとっては親の事情など知ったことではないので、場合によっては家族中が悪化してしまうこともあるが、本作ではむしろ親の愛を感じる結末となっている。

 自分は最近家族との繋がりが希薄になりつつあるのではないかと感じている。本作のように複雑な背景を持った家族ではないが、家族の絆というものは心の支え・苦しい時の希望の糸にもなるものだと思うので、大切にしていきたい。

 

 

~最後に~

 本作は犯人を推理させるタイプの作品ではなく、むしろ犯人が誰であるかは重要ではなく、その背景を読ませる作品であった。推理小説を読むとトリックや犯人が誰かに注目してしまうことが多いが、犯人や被害者の背景について深く考えるのも面白いと感じたので、ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

こちらの記事もおすすめ!

ashito.hatenadiary.jp