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◯初めての方にお勧めの記事!

辻村深月著「ぼくのメジャースプーン」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは辻村深月著「ぼくのメジャースプーン」である。本作は前回記事に書いた同著者の「名前探しの放課後」の伏線になっているとのことで、続けて読んでみた感想を述べたいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 





 



 




 

~あらすじ~

 小学生の「ぼく」はある日自分に特殊な力があることを知らされる。彼が意思を持ってはなった言葉には相手に条件を突き付けて縛る力があるというのだ。母からその力の使用は禁じられて生活してきたぼくだったが、ある日親友の「ふみちゃん」を襲った事件をきっかけにこの力と向き合っていくこととなる。

 

 

~おもしろいポイント~

①ぼくの苦悩

 本作では、「ぼく」の親友である「ふみちゃん」が大事にしていたウサギ小屋のウサギたちが、心無い犯罪者によって殺され、ふみちゃんがPTSDになってしまったことから犯人に復讐するため「(Aをしろ、さもないとBになるとAまたはBのどちらかましな方を相手に選択させる力)」の使い方を考えるという流れになっている。ぼくは同じ力を持っている親戚のおじさんである「先生」に力を行使する際のルール(同じ相手には2度は使えない、力が発動する条件など)を教えてもらいながら、犯人に対してどのような力を行使するのが適当かを考える。

 犯人はウサギを殺したことにより器物損壊罪で逮捕されたが、執行猶予付きの判決で釈放されており、しかも元いた医学部に戻るため反省したふりをして過ごしており、そのような相手にどのような罰がふさわしいのかという点が焦点となっている。これは物語の中だけでなく現実においてもしばしば問題になるところであり、これといった正解はなく、大人であっても判断が難しいところだ。そのような問題に対して小学生のぼくが、先生の力を借りながらも一人で悩み・苦しみ、そして決断を下していく様子が本作の見どころだ。

 作中にはぼくだけでなく、先生やその周りの人など様々な人の意見が出てくる。そしてどのような罰がふさわしいか、どのように問題とかかわっていくべきかといった問いに対する答えは人それぞれであり、どれが正しいというわけでもなく、この問題が正解のない難しい問題だということを物語っている。

 果たして自分が僕の立場だったのなら、もし同じ力があったのならば、自分はどういった罰を犯人に課すだろうか。ぜひ考えながら読んでみていただきたい。

 

 

②「名前探しの放課後」との関連

 本作を読むことで、「名前探しの放課後」に登場した伏線を回収することができた。「ぼく」が誰なのか、「しおちゃん」がだれなのかなど複数の伏線が隠されている。とくに物語のきっかけとなった、主人公・いつかはなぜタイムスリップしたのかという点についてはもろに本作の「ぼく」がもっている「力」が関与していた。僕がいつかに「3か月後に自分の気になっている人が自殺すると仮定しろ、さもないといつかの人生は寂しい」といったことにより、後者の罰を嫌がったいつかが、前者の想像をしたことにより、実際には3か月前からタイムスリップしてきたわけではないにもかかわらず、いつかは3か月後に気になっている人が自殺すると思い込んでしまったのである。実際にはこの思い込みに偶然にも本当に自殺しかねない事象が発生したことなどが重なったことであたかも本当にタイムスリップしてきたかのように見えている。

 このように物語の主観の部分が、ぼくの能力を前提に組み立てられており、本作を知らずともストーリーは成り立つが、ぼくの力を知っているとより面白いという仕掛けが施されている。他にも何人かの登場人物が本作にも登場しており、それを知った状態で「名前探しの放課後」を読むとまた違った見方・考察ができるので、ぜひ両方読んでみていただきたい。

 

 

~最後に~

 本作はぼくの苦悩を描いた作品として非常に読みごたえがあった。また前述の通り「名前探しの放課後」との関連もあり、登場人物への感情移入がしやすい点も個人的には良かった。どちらが先でも構わないのでぜひ両作品とも読んでみていただきたい。

 

 

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