歌野晶午著「密室殺人ゲーム王手飛車取り」感想(ネタバレ含む)
~はじめに~
本日ご紹介するのは、歌野晶午氏著「密室殺人ゲーム王手飛車取り」だ。密室殺人ゲームシリーズの最初の物語である。「葉桜の季節に君を想うと言うこと」でみせた緻密な文章構成や、「家シリーズ」で魅せた本格トリックなど多彩な才能を持つ歌野氏の魅力が存分に詰まった一冊となっている。今回はその魅力について語っていきたい。
以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい
~あらすじ~
ネット上で、ミステリ好きの5人によって繰り広げられる、ミステリ問題の出題と推理。一見、ただのミステリ好きのやり取りなのだが、実は出題された問題は、実際に出題者が行った犯罪であり、自分が行った殺人トリックを披露しているのであった。
~面白ポイント~
①文章によるミステリとの違い
推理小説ではしばしば、理論上では可能かもしれないが本当に可能なのか、という問題が取りざたされる。しかし本作では、出題者が考案したトリックが実際に実行され、成功しているという点で。推理小説とは大きく異なる。逆に、通常推理小説ではあり得ないような設定や状況も、現実で実行できたのならアリなのである。例えば、成功確率が5回に1回で、推理小説ならば「犯人がそんな不確実な方法を取ったはずはない」というトリックであっても、5回同様のトリックを使った犯罪を行い、成功した1回のみを出題すれば良いのである。このような文章だけのトリックとは一線を画するトリックを楽しんでいただきたい。
②多彩な手口・トリック
前項で、実現可能なトリックと入ったが、だからといってトリックの質や規模が下がるというわけではない。出題者が犯人という都合上犯人当てはできない(例外はある・・・)が、密室トリックからミッシングリンク、アリバイ崩しなど多彩で予想外のトリックが続々と出題される。そのどれもが、驚きに満ち、読者を楽しませてくれ、歌野氏の多才さを感じられることだろう。通常犯人は、以下に捕まらないか、自分がやったとバレないかを追求するが、この作品中の出題者(=犯人)は、以下に華麗なトリックを他の4人に披露するか、参ったと言わせるかを重視しており、そのため通常の推理小説で出てくるトリックよりもあっと驚かされる奇想天外なトリックが多くなっている。また時には、トリックの質や出題の仕方についての議論が成される場面もあり、推理小説が好きな方であれば一緒に議論を楽しめるだろう。
③手が止まらなくなるストーリー
様々な犯罪・トリックが披露されると聞いた方は、短編集のようなモノかと感じた方もいらっしゃることだろう。もちろんそういった側面もあるのだろうが、本作には、しっかりとしたストーリーも存在する。5人の登場人物は、全員が犯罪者という性質上、お互いの素性は知らないのだが、ゲームが進むにつれて相手の素性が見え隠れする。トリックの中には出題者の人物像が大きくトリックに関わっていることもあり、そちらについて考えてみるのも面白いかもしれない。
~最後に~
本日ご紹介した「密室殺人ゲーム王手飛車取り」。密室差圧人ゲームシリーズの原点であり、最高傑作であると思っている。これまで、ありそうでなかった設定をぜひ楽しんでいただきたい。
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