おもしろいゲーム・推理小説紹介

おもしろいゲーム・推理小説紹介

推理小説、マンガ、ゲームなどの解説・感想

◯初めての方にお勧めの記事!

青柳碧人著「むかしむかしあるところに、死体がありました。」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは青柳碧人著「むかしむかしあるところに、死体がありました。」である。本作は昔話を基にしたミステリとして注目を集め続編も発売されている。本日はネタバレも挟みつつ感想を述べたいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 

 





 

~あらすじ~

 一寸法師、花咲かじいさん、鶴の恩返し、浦島太郎、桃太郎。どれのみんなが知っている物語だがなんだか様子が違うようだ。そのの裏・先にある真相とは?

 

 

~おもしろいポイント~

一寸法師の不在証明

 一寸法師が鬼を退治した頃、近くで殺人が発生。現場の入口はちょうど一寸法師だけが通れる程度に開いていたが、死体が目撃された当時彼は鬼の腹の中にいた。完璧と思われた不在証明。しかも打ち出の小槌は自分に対しては掛けられず、また生き物以外(無生物や死んだ生物)には効果が無いため一寸法師の無罪は明らかと思われた。しかしそこには一寸法師のずる賢い策略が潜んでいた。

 トリックの肝は打ち出の小槌で小さくした被害者の首に縄を掛け、外から再度打ち出の小槌で被害者を大きくすることで首を絞めて殺害したのだった。

 よく知っている一寸法師の物語が本格ミステリに変貌し驚いた。しかも伏線やヒントの出し方もうまく、ミステリ小説としての完成度も高いと思った。

 

②花咲か死者伝言

 花咲かじいさんが殺害された。村人達は犯人を捜すが中々見つからない。花咲かじいさんが飼っていたシロに似た野良犬も犯人を捜すが、鼻が悪いことも災いして中々見つからない。しかしやっと犯人を見つけた野良犬が取った行動とは?

 この物語では1編目とは異なりトリックよりは犯人や犯人を見つけた野良犬がとった行動が面白い。ズバリ犯人はおばあさんで、シロのおかげで手に入れた財宝をおじいさんが簡単に寄付したりして手放したことに我慢できなかったのだ。それに気付いた野良犬はおばあさんの畑にトリカブトを植え、植物に詳しくないおばあさんが将来それを食べて死ぬようにした上で殺された。

 本来の花咲かじいさんのようなハッピーエンドから一変し、ブラックジョークに満ちた真相・結末が面白かった。

 

③つるの倒叙がえし

 自分を助けてくれた男のために高価な布を織ったツルだったが、欲に目がくらんだ男はツルにもっと布を織るようにいい、どんどん人が変わっていく。男とツルの行き着く先とは。

 本編では犯人捜しと言うよりはタイトルの通り物語が無限に繰り返される点が面白い。物語序盤で借金を返せと言いに来た庄屋を殺してしまった男だったが、ツルの織る高価な布に目がくらんだ男はツルに布を織らせて成り上がり、遂には庄屋になってしまう。そして過去の庄屋のように金を貸した親友に金を返せと取り立てに行き、物語は無限に繰り返されていくのである。

 章を飛ばしながら読むことで、物語がループしているように読むことができるようになっており、うまい作りとなっている。個人的には少し物足りない気がした。

 

 

④密室龍宮城

 浦島太郎が連れられた竜宮城で伊勢エビが殺された。しかし伊勢エビは密室の中で死んでおり、自殺と思われた。浦島太郎は推理をしていくが真相は?

 本作では浦島太郎が探偵役として推理していくが、実は誤った真相に辿り着いてしまう。本当の犯人は浦島太郎を連れて来た亀で、復讐のために伊勢エビを殺し、更に浦島太郎に誤った犯人を推理させてもう一人のターゲットも追い込んだのだった。事件の肝は「ととき貝」と呼ばれる竜宮城で息ができるようにする貝。実は「止時貝」と書き、一定の範囲内の時の流れをゆっくりにするという効果があり、亀はこれを使って密室を作りだしたのだった。

 止時貝の真相も面白かったが、この止時貝の効力を示すヒントとして乙姫の従者の「わかし」が成長してしまって「ブリ」になってしまい、不審者と思われて追放されたシーンが印象的だった。

 

⑤絶海の鬼ヶ島

 浦島太郎が去った後、生き残った鬼達の物語。平穏に暮らしていた生き残りの鬼とその子孫達だったが。ある日一頭の鬼が殺され、更に次々と鬼が殺されていく。一頭、また一頭と殺されていき遂に誰もいなくなる。

 「そして誰もいなくなった」をベースにしたような作品。死んだと思われた鬼の中に犯人がいたパターン。しかも犯人の鬼は、桃太郎が生き残った鬼に惚れて成した子だったというトンデモ展開。これまでの4編の物語に登場した道具も登場していたがやや無理矢理感がある。また犯人の鬼が浦島太郎の子どもと示すヒントはあるが、そもそも人間と鬼が子を成すことができるという点は示されていない。最後に置く物語としてはややいまいちだった。

 

 

~最後に~

 全体を通して、昔話をベースにしたミステリという点は面白かった。ミステリの完成度としてはいわゆる本物にはやや劣る部分もあるが、読み物としては十分楽しめる作品であった。続編も出ているのでそのうち読んでみたいと思う。

 

 

こちらの記事もおすすめ!

ashito.hatenadiary.jp