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◯初めての方にお勧めの記事!

伊坂幸太郎著「逆ソクラテス」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは伊坂幸太郎著「ソクラテス」である。本作は表題作を含む5つの短編から構成されたアンソロジーで、いずれも「逆」や「非」など否定形の言葉がタイトルとなっているのが特徴だ。店頭で目に留まったので読んでみた感想を述べたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

 

 

~おもしろいポイント~

①逆ソクラテス

 本作のテーマはソクラテスの名言「私が知っているのは、私が何も知らないということだけだ」である。要は逆ソクラテスは、自分が無知であることを知らない、つまり自分の知っていることが全てであり常識であるといった考え方を示している。常識や自分の先入観で物事を判断してはいけないというよく言われることであはあるが、それが子供視点で語られている点がなんとも大人としては頭が痛い。

 作中で語られる言葉「僕はそうは思わない」。たとえ周りがどういっていようと自分の意思を持ち続けることが大切であり、この言葉を口にしたり、あるいは心の中で思ったりするだけでも相手の傲慢や先入観による言動に対して寛容になれる。

 

②スロウではない

 本作では、転校生が実は元いじめっ子であり、そのことを反省してか転校先では足が遅く目立たない生徒を演じいていたという話だ。転校先のリーダー格の女子はまさに転校生のもとあったようないじめっ子の姿であり、転校生やそのほかの自分よりも劣ると判断したものを蔑んでいるが、ある出来事から転校生が実は自分よりも足が速いということがわかり世界がひっくり返る。

 これも前作同様、思い込みや先入観で人を判断し蔑んでいると痛い目を見るという教訓のようなものになっている。もちろん自分より劣っていれば蔑んでよいという道理はないし、その相手が実は自分より優れた人物であると分かったときは目も当てられない。目に見えていることだけが真実ではないということを考えて行動すれば誰もが浅はかな行動はしなくなるのかもしれない。

 

③非オプティマ

 本作では、交通事故で恋人を亡くした教師が悲しみに暮れ子供からも舐められるような覇気のない生活を送っていたが、偶然自分の担任の保護者が事故の目撃者で、自分の落し物のために女性が交通事故にあってしかも自分は助けずに去ってしまったことを後悔しているという話を耳にする。保護者は教師がその女性の恋人とは知らずに話しているのだが、教師は保護者が直接の加害者でないにもかかわらず後悔しているということに心救われる。

 授業参観でいつものように子供がペンケースを落として授業を妨害し、それに対して保護者からもっと厳しく指導してくれと苦言を呈される。これに対して教師は「それが取引先相手の子供でも厳しく言えますか、殴れますか」「自分が相手より立場の弱い場合と強う場合で態度を変えるのは間違っている」というような演説を披露する。相手によって態度を変えることは大人の自分たちであってもよくしてしまうことであるが、たとえ相手が自分より劣る(ように見える)場合でも優れる場合でも、子供であっても大人であっても、同じように接することができる人になりたいと私自身も思った。

 

④アンスポーツマンライク

 本作では、バスケをやっていた仲間とその恩師のやり取りを通していくつかの教訓が語られる。ひとつはたとえ悪いことをした相手であっても、それは何か理由があってのことかもしれないし、例え厳しく罰したり蔑んだりしたとしても、多くの場合その人はまた社会に復帰してくる。だとすれば更生の道もきちんと残してあげた方が互いにメリットがあるのではないかという内容(少し本来の言いたいこととは違うかもしれない)。もう一つは生徒を厳しく指導する顧問は、怒鳴って起こっても効果はない、教える側の怠慢であり楽をしているだけ、生徒を威圧してもプレーはうまくならないし、それしか指導ができないのであれば指導能力が欠如しているといった内容だ。

 この二つは一見関連がないようにも思うが、私個人としては「感情に任せて自分や周りの利益を損ないことをしてはならない」といった教訓なのではないかと思う。自分も時には感情的になって、自分の行動がもたらす不利益を考えずに行動してしまうこともあるが、理性を持って判断する気持ちも持ち合わせたいと思う。

 

⑤逆ワシントン

 本作では、桜の木を切ったワシントン大統領が正直に言ったことで許されたという話から、正直さの大切さについて語られている。主人公は正直で真面目であることが凡人が周りに認められる方法だと聞き、そういった行動を心がけようとする。もちろんその結果は良いことばかりではなく悪い結果になることもある。

 本作は他の作品と比べると絶対的な教訓のようなものは出てこないが、正直であることは凡人が認められる方法であるが、それは容易なことではない。時には不利益を被るかもしれないが、それでも正直であることがすごいことであり、だからこそ周りから認められるといった話であるか、あるいは時には正直さだけではうまくいかない場合もあるといった筆者の皮肉も込められているのかもしれない。

 なお本作では、「スロウではない」や「アンスポーツマンライク」の登場人物ではないかと思われる人たちのその後も描かれているようで、短編集全体の締めの役割も果たしているのかもしれない。

 

 

 

~最後に~

 本作では上記のような様々な教訓が語られる。全て正しいとも受け入れるべきだとも言わないが、一つくらいは心に残るものもあるかもしれない。ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

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