おもしろいゲーム・推理小説紹介

おもしろいゲーム・推理小説紹介

推理小説、マンガ、ゲームなどの解説・感想

◯初めての方にお勧めの記事!

朝井リョウ著「死にがいを求めて生きているの」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは朝井リョウ著「死にがいを求めて生きているの」である。本作も「螺旋プロジェクト」という8作家による「共通のルール」によって繋がった作品を一斉に作るという新たな試みの中の一作である。

www.chuko.co.jp

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 




 

~あらすじ~

 時は平成。昭和から時代が変わり世の中の考え方や風習がどんどん変わっていく。そのような時代の中で生きる様々な視点から語られる物語。移り行く時代の中で人々は何を考え、何のために生きていくのか。さらにそこに海族と山族の対立が何をもたらすのか。 

 

 

~おもしろいポイント~

①移り行く時代の中で

 あらすじにも書いた通り、本作では平成の移り行く時代の流れの中で生きる様々な人物視点で物語が語られていく。それらの物語は主に山族の少年堀北雄介と海族の少年南水智也の子供時代から大学生の頃の物語だ。二人は山族と海族という対立する立場にありながら親友として長く共に過ごしてきた。争いごとを好む堀北は、対立する行事や決まりごとがどんどんなくなっていく時代の中で、自ら争いの中に身を置くことで生きていることを実感していた。一方南水は同じく海族であり、海族と山族の対立を研究している父から、山族の堀北とつるむことを反対されていたが、そんな父に反発しその考えを否定することを生きがいとしていた。

 このように登場する様々な人物たちは移り行く時代の中でそれぞれの生きがいを探し、それにすがって生きている。これは何も物語の中だけの話ではなく、平成から令和へと時代が変わり、これまで常識だったことが常識でなくなりつつある現実でも同じことが言えるだろう。転職を繰り返す人、インスタなどSNSで自分を発信する人、路上で酔いつぶれて眠る人、みんながそれぞれに生きがいを見つけて必死で生きようとしている。本作は私のようになんとなく毎日を生きているひとにとって生き方を改めて考えさせられる作品だと感じた。

 

②海族と山族の対立

 本作では、他の螺旋プロジェクトの作品と比較して(全て読んだわけではないが)海族と山族の対立を描くシーンが極端に少ない。物語後半に多少描かれこそするが基本的には個々の物語を描く中で登場人物の目の色や考え方などからどちらに属するのかが暗に語られている程度だ。中立の立場としてすべての作品に登場すると言われている審判も明確には語られていないように思う。そのためあまり意識しないと螺旋プロジェクトの作品であることを忘れてしまうほどだ。

 おそらく移り行く時代の中でもがく人々は自分の生きがいを探すので精いっぱいで他者と対立する余裕もないのだろう(対立そのものを生きがいとする場合は別だが)。もしかすると戦争などの大規模な対立も、生きがいを見つける必要がなくなったり、平和に飽きてしまったことで起きているのかもしれない。

 

 

~最後に~

 本作は螺旋プロジェクトの中でも少し普通の小説寄りの作品に感じた。他のプロジェクト作品のような内容を期待していると少々期待とは異なってしまうかもしれないが純粋に人間の生きざまを描いた作品としては面白いのではないだろうか。

 

 

こちらの記事もおすすめ!

ashito.hatenadiary.jp

ashito.hatenadiary.jp

ashito.hatenadiary.jp