辻村深月著「スロウハイツの神様」感想(ネタバレ含む)
~はじめに~
本日ご紹介するのは辻村深月著「スロウハイツの神様」である。本作は舞台化もされるなど話題となった作品である。本日はネタバレも挟みつつ感想を述べたいと思う。
以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい。
~あらすじ~
作家や小説家、脚本家など、その卵たちが集うスロウハイツ。そこに住む人々は様々な過去・現在を抱えていた。彼らの複雑な過去を振り返ると、思いもよらない真実が隠されていた。
~おもしろいポイント~
①チヨダコーキと赤羽環
本作には現在スロウハイツに住んでいる人々や過去に住んでいた人々など、多くの登場人物が存在するが、物語の核はスロウハイツの実力No.1・天才作家のチヨダコーキ(千代田光輝、コウちゃん)とスロウハイツの持ち主で人気急上昇中の脚本家・赤羽環を中心とした物語である。コーキは知らない人はいないような有名小説家で、スロウハイツの住人たちは皆彼を好いている。人見知りで書き出したら周りの声も聞こえないなど癖は強いが皆から慕われている。数年前に「ある事件」に遭遇し執筆活動を中止していたが、見事復活し今も超人気小説家として君臨する。赤羽環は新進気鋭の脚本家で自称・スロウハイツのNo.2。プライドが高く自分を絶対に曲げない強さがあるが、実は弱さを無理して隠している側面もある。彼女の過去には壮絶な体験があり、それが現在の彼女を作っている。一見接点のなさそうな彼らだが、その過去を紐解いていくと意外な接点が隠されている。それは緻密な伏線として隠されており、ほかの登場人物の会話などと合わせて考えることで見事な一つの線となって終盤に見事に回収される。この終盤の見事な伏線回収は流石は辻村深月といった感じで、考えていた以上に多くの伏線が隠されていたことに気づかされる。
②個性豊かなスロウハイツの住人達
前述の2人以外にもスロウハイツには住人がいる。彼らはマンガ家や脚本家、画家などの芸術家の卵たちで、前述の2人のようにデビューして人気を博しているわけではないが、その才能や性格を環に認められスロウハイツに住むことになる。彼らにもそれぞれ複雑な過去や現状、隠された秘密があり、それらが物語に起伏をもたらす。彼らの感情は芸術家ならではともいえるし、だれもが抱えているわだかまりであるとも言え、ある点では共感できる部分も多い。彼らの感情を感じるだけでも十分楽しめるし、彼らの行動の裏に隠された真実や伏線を考えても面白い。
~最後に~
序盤はそれぞれの人生を紐解いていく感じで繋がりが見えてこないが、そこは辻村深月。終盤に圧巻の伏線回収と怒涛の展開が待っている。個性豊かな彼らの物語に飽きることはないと思うが、ぜひ最後まで読み切ってほしい作品である。
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