伊坂幸太郎著「フーガはユーガ」感想(ネタバレ含む)
~はじめに~
本日ご紹介するのは、伊坂幸太郎著「フーガはユーガ」である。ミステリの枠からは少し飛び出てしまうかもしれないが、2019年本屋大賞にもノミネートされ話題を呼んだ本作についての感想を本日は述べていきたいと思う。
以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい。
~あらすじ~
フーガとユーガ。ある双子の物語。幼い頃、父親から日々暴力を受けていたことと毎年誕生日に起きる「アレ」を除いては、よくいるそっくりな一卵性の双子。そんな彼らが子どもから大人になり、現在に至る物語。
~おもしろいポイント~
①特殊設定
この作品を語る上で外すことができないのが風我と優我の間で毎年誕生日に起こる「アレ」である。「アレ」とはすなわち、10時10分から2時間おきに二人が入れ替わることである。入れ替わるとは文字通り、風我と優我が身体ごと物理的に入れ替わるのである。そしてもちろんこの特殊設定が物語りの展開と結末に大きく影響してくる。こうした科学的にあり得ないことを前提に話が進んでいく様は、西澤保彦氏などのSF推理小説を思わせる。超過額的現象ではあるものの、そこにはちゃんとした法則・決まり事があり、それに従って物語は進み、読者は推測しながら読んでいくのである。昨今ではよく見かけるようになった特殊設定物ではあるが、それは伊坂氏の得意とするジャンルであり、本作もこの特殊設定を存分に活かした展開となっている。
②張り巡らされた嘘・伏線
本作は終盤まで、双子の片方が記者に語るという形で幼少期から大学生までの物語が語られる。そしてその話の中には、作中で言明されている通り、意図的な嘘が混ぜ込まれており、読者はなんとなくその嘘とは何なのかと頭の片隅で考えながら読んでいくこととなる。終盤までは、特殊な能力があること以外は波瀾万丈ながらもありえる双子の過去の物語を読んでいる感じであるが、終盤それが一変する。これまで語られていた何の繋がりもないと思われていた内容が一つに収束し、現在の状況に繋がっていくのである。こういった終盤でたたみかける展開は道尾秀介氏の作品に似ていると感じた。伏線の張り方が巧妙で、一部は気付いても全ては気付けないであろうから、終盤それらが一気に回収されていく様は爽快である。改めて伊坂氏の文章・構成に魅了される作品となっている。
③本当の物語
伊坂氏曰く、この作品は「現実離れした兄弟の、本当の物語」を書いたとのこと。もちろん前述の「アレ」は現実では起こりえない超常現象であるのに、一体何が「本当の物語」なのだろう。あくまで個人的な見解だが、本作の内容は、「アレ」に関する事象以外は、家庭内暴力も、学校でのいじめも、裁かれない犯罪者も、残念ながら本当に存在しており、ただそれらを書くだけではなく、一種の希望・救いとして双子の「アレ」が存在しているように感じた。実際文庫版の後書きで伊坂氏も類似した趣旨の?ことを語られているが、実際に起こっている社会の問題を提起しながら、物語の中だからこそ、救いを提供できるのであり、物語の良さが存分に出た作品だと思う。
~最後に~
本作はミステリとは若干ジャンルが異なるが、ミステリファンでも十分楽しめる内容だと感じた。もちろんミステリファン以外でも読みやすく、どんどん先を読みたくなるような展開となっているため、既に読まれた方も多いかもしれないが、まだの方はぜひ一度読んでみていただきたい。