凪良ゆう著「流浪の月」感想(ネタバレ含む)
~はじめに~
本日ご紹介するのは凪良ゆう著「流浪の月」である。本作は第17回本屋大賞受賞作品で、2022年5月13日に松坂桃李と広瀬すずの主演で映画公開が予定されている注目作品である。ミステリに分類されるものではないが面白かったので感想を述べたいと思う。
以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい。
~あらすじ~
我慢をしない自由奔放な母と優しい父と幸せに暮らしていた主人公。しかしその暮らしは突如終わりを告げ、伯母の家で暮らすことに。そこで待っていたのはそれまで彼女が知っていた世界とは異なる生活。それでも馴染もうと頑張っていた彼女だが、心の中では疑問と苦悩を抱えていた。そんな少女を救ったのはいつも公園で小さな女の子を見つめていた青年だった。しかし彼らの関係は周りからは理解されず・・・。
~おもしろいポイント~
①世の常識に挑む
本作は、世の常識や正しいとされていることに対して改めて自分の頭で考えることの重要性を説いてくれる。作中ではいわゆる「ロリコン」として少女誘拐で逮捕された青年と誘拐された(当人からすれば救われた)少女のその後の関係を描いており、一般的な常識からすれば加害者と被害者の関係であり、そこに親密な関係が生じることは非常識・奇異の目で見られる。しかしながらそれらはあくまで一般的な話であり、全てのケースにそれが当てはまるわけでは無い。今回の話では、少女は日常から従兄弟によるわいせつ行為を受けていたり、幼少期とは異なる生活を強いられたりして苦痛を感じており、そこから救い出してくれた青年に感謝しており、また誘拐も自らの意思で付いていき、自らの意思で共に過ごしただけで、青年からは何の被害も受けていない。しかし世間は少女の青年に対する好意を「ストックホルム症候群」のせいとみなし、同情し心配してくる。それらが決して悪意のみによるものでもないため主人公は更に苦悩していくこととなるのである。
②巧みな文章表現
ストーリー序盤では主人公と良心との明るく楽しい生活が色とりどりの言葉で飾られており、読んでくる側にもその楽しさや自由奔放さが伝わってくるような表現力を感じる。一方でそれ以降は重苦しい展開となり、序盤とは全く違った雰囲気を醸し出す。こういった流れの変化を情景描写に巧みに取り入れ、読み手が感情移入しながら読み進めることができる。
③終盤の驚き
本作はミステリでも無ければ読者を騙そうとしているわけでも無いが、終盤に少し予想外の展開が待っている。その予想外の事実によって物語の見方がまた少し変わっていくこととなり、最後まで飽きずに読み進めることができる。ミステリにおけるどんでん返しとはまた異なるが、話全体が引き締まり完成度を高めている。
~最後に~
吉田大介氏の解説にはこうある「凪良ゆうの小説を読むことは、自分の中にある優しさを疑う契機になる」と。本作は正にそういった作品だ。もうすぐ映画化も控えているため、本が苦手という方も映画から入ってみるのも良いかもしれない。