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◯初めての方にお勧めの記事!

西澤保彦著「パズラー」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは西澤保彦著「パズラー」である。本作は6つの短編からなる短編集である。西澤氏と言えば、以前このブログでもご紹介したSF推理小説で名高いが、もちろんそれ以外の作品も高い完成度を誇っている。本日は各短編のあらすじと感想を述べたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ・おもしろいポイント~

 

①蓮華の花

【あらすじ】同窓会に参加した作家の主人公はそこである同級生の死を知る。しか    し、以前彼が聞いていた話とは死んだ同級生の名が異なる。一体なぜこんな齟齬が生じ  たのか。様々な説を出して調査していった先に主人公は、自分の人生を左右する真相に思い至る。

【所感】最後まで明確な真相が明らかになるわけではないが、主人公がこれまで築き上げてきた人生が、自分だけの力ではなかったのかと思い至り、薄ら寒い気持ちになっている様子が読み手にも伝わって来て、特に最後の一文はゾッとするようなインパクトがあった。

 

②卵が割れた後で

【あらすじ】ある草地で学生の遺体が発見された。遺体には腐った卵が付着していた。事件を捜査していくと、被害者の周りには殺人の動機になり得る事情を抱えた学生達がいたが、彼らの証言と遺体の状況にはどうも食い違う部分がありしっくりこない。事件の全体像はいかに。

【所感】事件自体は比較的シンプルな物だが、舞台がアメリカということもあり背景の理解にやや時間が掛かった。捜査情報に基づいてあれこれ仮説を立てては否定されていくのだが、最後に辿り着いた真相は序盤に巧妙に張られていた伏線を見事に回収する物で、西澤氏の才能を垣間見た。

 

③時計仕掛けの小鳥

【あらすじ】主人公は高校に進学し、通学路が変わったことで小さい頃通っていた本屋を再発見し立ち寄った。そこで購入した本を読んでいると、中には定規で書かれたような文字で「三好書店にこれを売れ」と書かれたメモが挟まっていた。始めは中古本を売りつけられたと憤っていた主人公だったが、冷静に事実を整理していくと様々な疑問に思い至る。書店の店主の過去や自分の過去と併せてあれこれ想像を巡らせていった主人公は、最後にとんでもない仮説に辿り着く。

【所感】限られた情報から、主人公が必死に仮説を立てては否定しを繰り返して真実に迫っていく様子が印象的。また、真相とおぼしき仮説に辿り着いた主人公の行動も、普通の推理小説とは異なっており、高校生という年齢も相まって大人になるとはそういうことなのだろうかと考えさせられてしまった。

 

 

④贋作「退職刑事」

【あらすじ】刑事が帰宅した後、彼の父がある事件について聞いてきた。既に犯人が自供しており特に不思議な点もなかった事件であったが、彼の話を聞いた父は細かい点に注目し質問してくる。父の質問に答えていくと、明らかにおかしいわけではないがよく考えてみれば納得いかないような点が次々と見出され、事件は当初の想像とは違った方へと展開していく。

【所感】正に安楽椅子探偵だ。当初事件は特に不思議な点がなかったが、話が進むにつれてどんどん謎が深まっていく。しかし最後にはきれいに伏線も回収してスッキリした真相を見せてくれた。

 

 

⑤チープ・トリック

【あらすじ】ある廃協会で首が切断された死体が見つかった。死体は地元で有名な悪ガキで、悪ガキの仲間は次は自分が狙われると主人公に助けを求めに来た。話を聞くと、殺害時に仲間は一緒に居たらしいのだが、どう考えても脱出不可能な密室の状況だったと言う。その話を聞いた主人公が取った行動とは。

【所感】西澤氏に珍しい密室物。とはいえ単なる密室トリックというよりは、それが使用されたシチュエーション・背景が肝となる。ただの密室トリックと思って推理しながら読んでいると最後の結末にゾッとすることだろう。

 

 

⑥アリバイ・ジ・アンビバレンス

【あらすじ】同級生の男子が殺害されて見つかった。同じく同級生の女子が自分が殺したと自供している。しかしながら、実は主人公は事件のあった時間にその女子と男性が一緒に居るところを見ており、しかも数時間建物の中に留まっていたことを知っており、その女子にはアリバイがあることを知っている。なぜ彼女はアリバイがあるのにそれを主張せず自分が犯人だと主張しているのか。分かっている事実を基に推理をしていった先に待っていた彼女の目的とは。

【所感】6つの短編の中で最もうまいと思った作品。通常、アリバイを主張して犯人ではないと主張するのとは逆に、アリバイがあるのに犯人だと主張する理由を考えるというアイデアが素晴らしい。しかもその真相は個人的に納得のいくもので、「なるほど」と感嘆した。後味が良い真相ではないがスッキリと読み終えることができた。

 

 

 

 

 

~最後に~

 本作に収録された6編は、いずれもストレートなミステリというよりはちょっと意外な真相というものが多い。「パズラー」の題名の通り、散りばめられたヒントを拾い集めながら論理的に組み立てていくことでその意外な真相が明らかになっていく。ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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