島田荘司著「Pの密室」感想(ネタバレ含む)
~はじめに~
本日ご紹介する作品は、島田荘司著「Pの密室」である。本作は鈴蘭事件とPの密室の2本立てとなっており、いずれも名探偵・御手洗の幼少期(幼稚園~小学校低学年)の頃の話である。これまでもいくつか御手洗潔シリーズをご紹介してきたが、本作は御手洗の原点とも言える事件を取り扱っている。
以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい
~面白いポイント~
①鈴蘭事件
こちらの事件は、御手洗が女性嫌いになった原因とも言われている事件だ。花瓶から鈴蘭の花が消え、ある男性が交通事故に遭った。様々な状況から幼稚園児の御手洗は鈴蘭に含まれる毒を使った事件だと見抜き、犯人を追い詰めるのである。某マンガの主人公が頭脳は高校生であるのに対し、御手洗は頭脳が幼稚園児の時から名探偵だったのである。この事件の動機が男女関係のもつれであり、犯人は愛人に唆されて犯行に及んだことや、さらにその愛人が犯人を見捨てたこと、更にはこの愛人の更に裏で御手洗の伯母に当たる女性が糸を引いていた可能性にも御手洗は気付いており、女性という生き物に嫌悪感すら抱くのであった。このことが大人になった御手洗が女性を苦手とする原因の1つになったのではないかと言われているそう。
②Pの密室
ある密室で男性が殺害された状態で見つかった。家は窓にも全て鍵が掛れた密室であったが、御手洗は家の間取りや直角三角形の各辺に正方形の部屋が付いている形状、床一面に殺害された男性がコンクールに出されたポスターを評価するためにポスターを隙間なく敷き詰めていたことやその上に残った血痕や赤い絵の具などから犯人の行動を推理するのであった。小学生でありながら当時一般的でなかったルミノール反応による血痕の検出を行ったり、表題にもある数学の教科書でおなじみのPの定理から犯人を追い詰めたりと、鈴蘭事件に引き続き子どもとは思えぬ名探偵ぶりを披露していく。しかしながら、子どもの話とはじめは誰も相手にしてくれず、御手洗は歯がゆい思いをしており、大人になった御手洗が警察や常識人を嫌う1つの理由になっているのではないだろうか。
~最後に~
本作は、トリックとしてはそこそこの完成度であるが、御手洗潔シリーズファンとしては御手洗の幼少期を垣間見える貴重な作品となっている。シリーズファンであればぜひ一度読んでみていただきたい。また、比較的短い作品なのでちょっとした読み物としてはシリーズファンでなくとも楽しめるのではないだろうか。