麻耶雄嵩著「さよなら神様」感想(ネタバレ含む)
~はじめに~
本日ご紹介するのは、麻耶雄嵩著「さよなら神様」である。本作は「神様ゲーム」に続く神様シリーズの2作目で、第15回本格ミステリ大賞を受賞した名作である。本日はその魅力を語っていきたい。
以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい。
~あらすじ~
俺、桑町淳のクラスメイトには自称・神様がいる。俺は彼が神様とは信じていないが何らかの特殊能力を持った人間だとは信じている。神様は全知全能で知らないことはなく、嘘もつかないと宣っている。そんな神様に俺は、周りで起きた殺人事件の犯人を聞かずにはいられないのだった。
~おもしろいポイント~
①犯人は○○
本作は6編の連なる短編から構成されているが、その全てが、神様こと鈴木太郎が「犯人は○○だよ」と宣うところから始まる。神様の言うことは絶対に正しいのだから、犯人はこの時点で確定するのである(登場人物達がそれを信じるかどうかは別として。そしてそこから、俺と俺が所属する探偵団のメンバーが裏付けをしていくのだが、神様が犯人だと断定した人物には確固たるアリバイがあり、それを動崩すのかというのが本作の楽しみ方である。もちろん神様は全てを知っているのだが、主人公曰く悪意に満ちている神様はいつも犯人の名前しか教えてくれない。しかもその犯人の名前は主人公に関わりのある人たちばかりで、余計に神様が悪意に満ちていると感じるのである。読者としては、神様が宣った犯人は確定として推理していくのだが、アリバイトリックの真相は初心者でも分かりそうな簡単なものから、到底思いつかないような奇想天外なものまで様々。アリバイトリックと言っても、時刻表とにらめっこするようなものではなく、明確にして大胆な罠によるものなので、読者としても真相をスッキリ理解することが出来る。また、神様という絶対的な存在をうまく使ったトリックもあり、他の作品では見られない謎解きを楽しむことができる。
②主人公達の行く末
前述の通り、神様に殺人犯だと断定された者達は主人公の周りの人たちばかりである。当然、徐々に人間関係にヒビが入り、最後には血みどろのどろどろになってしまうのだが、おそらく神様はその事を分かっていて楽しんでいるのであろう。中盤、主人公の俺・桑町淳が実は女性だったという事が明かされ、物語は男女関係を巡るものへと変化していく。主人公が女だったが故に起こる軋轢や嫉妬が事件を巻き起こしていくのである。一時は学校に通えないほど心を傷つけられてしまう主人公だが、神様が学校を去り、時が経つにつれて明るさを取り戻す。しかしそんな幸せな彼女の前に再び神様は現れ、残酷な真実をちらつかせるのである。彼女がこの神様の呪縛から逃れられるかは実際に読んで見ていただきたい。
~最後に~
本作は、短編集ということもあり短い時間で読みやすい作品になっている。また、通常の本格ミステリとも趣向が異なるため、普通の作品に飽きた方への変わり種としてもおすすめだ。読書の秋深まる今、ぜひお手に取ってみていただきたい。