辻村深月著「かがみの孤城」感想(ネタバレ含む)
~はじめに~
本日ご紹介するのは辻村深月著「かがみの孤城」である。本作は2018年に本屋大賞を受賞した作品で、2022年に劇場アニメ化が発表され再び注目を集めている。ミステリでは無いが真相を予測して読んでいく展開は似ているので読んでみた感想を述べたいと思う。
以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい。
~あらすじ~
主人公はあることが原因で学校に通っていない中学生。彼女はある日部屋の鏡が光っているのを見つけそしてその中へと吸い込まれ、現実のものとは思えない城にたどりつく。そこで出会ったのは狼の面をした少女。集められたのは主人公と同年代の7人の少年少女達。彼女たちに待っていたものとは?
~おもしろいポイント~
①涙が止まらないストーリー
本作で登場する7人の子どもたちは、全員が何らかの理由で学校に行けていない、もしくは希望する学校に通えていない。彼女たちが抱える事情はそれぞれで、合わない友だちがいたり、親の方針だったり、本人の性格の問題だったり様々だ。彼女たちが置かれている状況を考え、周囲の心ない言葉や理解の無い態度、恐怖、不安が巧みに描写されており、登場人物に感情移入してしまうと涙が止まらなくなる。どうか彼女たちの冒険の結末がハッピーエンドでありますようにと願わずにはいられない。
②謎だらけの世界
鏡に吸い込まれて集められた7人達は辿り着いた城でなんでも一つだけ願いが叶う鍵を探すように言われる。物語終盤まで7人ともそれほど必死になって鍵を探す描写は無く、似た境遇の仲間が集まったこの空間でのひとときを楽しむことがメインに描かれてはいるが、やはり最大の謎は鍵はどこにあるのかという事だろう。他にも、集められた7人の関係性や狼の面をかぶった少女の正体、この城の存在意義など物語中には謎がいっぱいある。それらの謎を解くためのヒント・伏線は実は序盤からあちこちに散りばめられており、それらを終盤に一気に回収していく様は爽快だ。こういった展開はミステリ小説にも通ずるものがあると思う。おそらく一部の謎についてはおおかた察しが付く読者も多いだろうが、全ての伏線に気付き全ての謎を解いている読者は少ないのでは無いかと思う。
③主人公の成長
主人公の少女はあることが理由で学校に通っておらず、今では外に出ることすら恐ろしいと感じるまでになってしまっていた。そんな彼女が、不思議な城で似た境遇の仲間達と出会い、ぶつかりながらも対話を重ね絆を強めていく。現実では会うことの無い彼らだが、城での経験は彼らの心境にも変化をもたらし、現実でもこれまではとても無理だったような行動を取ることもできるようになっていく。そして終盤には主人公は一人でみんなを助けるような行動すら取っている。そういった仲間との成長を見られるのも本作の魅力だ。しかし一方でそういった魅力があるからこそ、中盤で明かされる「願いを叶えるとこの城での記憶は全て無くなる」という条件が主人公達を、そして読者を苦しめる。
~最後に~
本作は「不思議の国のアリス」を現代風に落とし込み更にひねりを加えたような作品だった。前述の通り時折涙してしまうほど感情移入しやすい文章・魅力的なストーリーであった。今後アニメを見る方も、見る予定の無い方もぜひ一度読んでみていただきたい。
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