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◯初めての方にお勧めの記事!

伊坂幸太郎著「モダンタイムス」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは伊坂幸太郎著「モダンタイムス」である。本作は「魔王」から50年後の近未来を描いた作品。魔王を読んでいなくとも楽しめる作品とのことで、新装改訂版の表紙が目についたこともあり読んでみた。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 




 



 




 

~あらすじ~

 システムエンジニアの主人公・渡辺拓海はある日仕事をほっぽり出して行方不明となった先輩に代わってある仕事に携わることとなる。その仕事は特に難しい仕事には思えなかったが進めていくと謎のプログラムが仕込まれていることがわかる。その謎を追った先に待っていたものは・・・。

 

 

~おもしろいポイント~

①監視社会の行く先

 本作は近未来?の設定であるが、特段考えられないような発明や状況は登場しない。むしろ物語の軸となる監視社会や情報操作については今現在正に大きな問題となりつつあり、読んでいて妙なリアリティがあり恐ろしくも感じる。過去の事件の真相を追究しようとした者を見つけ出し痛めつけ、時には殺してしまうという恐ろしい設定だが、それが本当には起こりえないと言い切れないのが怖い。この妙なリアリティにより物語に引き込まれ、没頭して読んでしまう点が本作の魅力の一つだろう。

 

②親玉は存在しない

 本作で何度も出てくる「そういうこと/システムになっている」というセリフ。今起こっている恐ろしい事象は特に誰かが悪意を持って仕組んだものではなく、そういう風になることがすでに流れに組み込まれており、真相を追求していってもボスのような悪の親玉は存在しないというのだ。実際最後に情報監視システムの会社に乗り込むのだがそこはごく普通の会社であり、社員たちは何も知らずに仕事を行っている。これも作中に言及されていることだが、役割が細分化されていくことでそれぞれが作業的に仕事として役割をこなしていき、それが最終的に誰に何をもたらすのかなどということは気にかけなくなるのだ。これを聞いて、確かに自分も「仕事だから」という理由で行っている作業が、最終的に社会にどんな影響をもたらしているのかなどということを気にかけたことはないし、おそらくそういう方がほとんどなのではないかと思う。別にそれが悪いとは思わないが、それが本作のような悪意なき悪を生み出しうると考えると少し考えてしまう。

 

③緻密な伏線の数々

 本作には伊坂幸太郎らしい緻密で計算されつくした伏線があちこちに張り巡らされている。特に作中に登場する井坂好太郎が吐くセリフの悉くが後半の伏線となっており、一部は明らかなもので読んでいて何となく予想できるのだが、そこも伏線だったのかと驚かされるほどあらゆる点が伏線となっており、推理小説とまではいかないが真相を予想する楽しみがある。ここまで伏線が多いと不自然な文章になってしまいがちなのだが、井坂好太郎のちょっと?変わったキャラクターという設定によりそれがうまく溶け込んでおり、またこのキャラクター設定も割とシリアスな内容に良いアクセントとなっており、全体としてバランスの良い作品だと感じた。

 

 

~最後に~

 あとがきで言及されていたが、本作は文庫化にあたって物語終盤で明らかとなる事件の真相が別の真相へと変わっているらしい。変更前の真相は詳しくは知らないが両方を見比べてみるのも面白いかもしれない。

 

 

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