法月綸太郎著「生首に聞いてみろ」感想(ネタバレ含む)
~はじめに~
本日ご紹介するのは、法月綸太郎氏著「生首に聞いてみろ」である。本作は第5回本格ミステリ大賞を受賞した法月氏の代表作の一つである。なかなかグロそうなタイトルから手に取るのを躊躇されている方もいるかもしれないが、悩める作家の渾身の一作だけあって素晴らしいできとなっている。本日はその魅力を語っていく。
以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい
~あらすじ~
有名な彫刻家が病死し、その作家の遺作となる彫刻が、首が切断された状態で発見された。誰が何のために切断したのか。切断した首に隠された驚きの真相とは。
~面白ポイント~
①生首に聞かない
本作のタイトルは「生首に聞いてみろ」であるが、実は中盤まで生首は登場しない。代わりに物語の中心となるのは彫刻家の遺作である「母子像」の切断された首である。この切断された彫刻の首にどのような意味があったのか、というのが本作最大の謎である。切断された首は誰の顔をしていたのか、どんな表情をしていたのか、そもそも首がある作品だったのか。様々な意見が出ては覆り、最終的に辿り着いた真相には病死した彫刻家の懺悔とも後悔とも言うべきものが込められている。その真相によって不都合な事実が明らかになってしまう犯人によって首は切断され、さらにはその首を巡って本物の生首さえも登場する悲劇へと発展していく。
②迷探偵?綸太郎奔走
本作は、主人公として作者と同名の小説家・法月綸太郎が登場するシリーズの一作であり。綸太郎が事件の謎を追って奔走する。最終的には真相を明らかにするのだが、良くある名探偵とは違いスマートに謎を解決していくわけではない。どちらかというと刑事物のように地道な捜査によって得られた証言を基に少しずつ謎に迫っていくのである。読者の中には中々真相が明らかにならずじれったく思う方もいるかもしれないが、ある意味現実味のある探偵像ではないだろうか。事件解決に奔走する綸太郎は、悩める作家とも言われる法月氏を小説の中に落とし込んだもののようで、応援してあげたくなる。そんな身近に感じられるような迷探偵と読者の皆さんも一緒になって謎を解き明かしていって頂きたい。
~最後に~
本作は、登場人物も多く(推理小説では普通くらいだが)、真相も非常にこんがらがっているため、スッと理解してどんでん返しびっくりすると言うよりは、思わずため息をついて真相の深さに感嘆するといった作品である。そういった作品が好きな方にはぜひ読んでいただきたい。