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◯初めての方にお勧めの記事!

有栖川有栖著「女王国の城」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは、有栖川有栖著「女王国の城」である。有栖川氏の代表作としては名探偵「火村英生」が登場する、いわゆる「作家アリスシリーズ」が有名であり、ドラマ化され話題となったことも記憶に新しい。一方本日ご紹介する「女王国の城」は、名探偵「江神二郎」が登場する、いわゆる「学生アリスシリーズ」の一つである。火村英生ももちろん魅力的だが、江神二郎もまたひと味違った魅力を持っている。本日はその魅力を含めて語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

                

 

 

 

 

 

 

 

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~あらすじ~

名探偵「江神二郎」が姿を消した。英都大学推理小説研究会(EMC)の部長を務める江神二郎は「ちょっと遠出する」といい残し、姿を見せなくなった。当然心配した有栖川有栖を含むEMCのメンバーは情報を集め、江神部長がとある宗教都市に向かったことを知る。EMCメンバーはなんとか宗教都市に潜入し江神部長と再会するも、そこで殺人事件が発生。事件を表に出したくない宗教団体によって、「城」に軟禁されてしまう。脱出するには事件を解決するしかない。そもそもなぜ事件を表に出したくないのか江神さんはなぜここに来たのか。様々な謎が交錯し、謎が深まる中でも、江神二郎の論理的で冷静な推理が全てを明らかにする。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①超本格推理小説

まず一つ目の魅力は、有栖川氏の多くの作品で見られるように、ザ・本格ミステリである点だ。読者は探偵・江神二郎、主人公・有栖川有栖と共に情報を収集し、謎を解いていく。与えられる情報は読者・江神二郎・有栖川有栖全て同じである。ある時点で、全ての謎を解くために必要な情報が全て揃い、江神二郎も謎を解明する。この段階で「読者への挑戦状」が入る。更にその後もヒントとなる情報がプラスされていき、最後に種明かし、という流れである。読者は江神二郎のように早い段階で謎に気付くかもしれないし、有栖川有栖のように中々気付かないかもしれない。あなたがどのくらい江神二郎の推理に近づけるか、お試しあれ。

 

②魅力的な伏線

2つ目の魅力は、謎を解くためのヒントの出し方が素晴らしい。メインの謎を解くためのヒントを、ただ捜査していって発見するのではなく、過去にこの宗教都市で起こったいくつかの事件を紹介し、それらの謎を解いたとき、全く別物だと思っていたメインの謎のヒントとなる、という様にプロットが組まれており、最後に全ての話・謎が一つに繋がったときの快感は、一入である。

 

 

③魅力的な登場人物

推理小説ではしばしば、登場人物が多すぎたり、誰が誰だか分からなくなってしまうことがある。それは、登場人物に魅力・特徴などが不足しているからではなかろうか。その点、この作品の登場人物達は魅力にあふれている。特にEMCの5人のメンバー、アリス、江神さん、モチ(望月周平)、信長(織田光次郎)、マリア(有馬麻理亜)は特徴的だ。推理小説研究会と言っても推理小説には色々なジャンルがあり、派閥もある。例えばモチはエラリー・クイーン信者であるし、信長はハードボイルド好きである。こうした好みが、推理や行動に表れており、本格ミステリファンでない読者も色々な角度から楽しめるだろう。

 

 

 

 

 

 

~最後に~

今回ご紹介した「女王国の城」を含む「学生アリスシリーズ」は、全5作とされており、これまでに「月光ゲーム Yの悲劇'88」、「孤島パズル」、「双頭の悪魔」、「女王国の城」の4作が発表されている(短編集としては「江神二郎の洞察」もある)。もちろんシリーズを初めから全て読んでいただいた方が、EMCメンバーへの感情移入もしやすく、おもしろいと思う。それぞれ独立して読んでも、本格ミステリとしていずれも完成度の高い作品となっており、お楽しみいただけるだろう。最後の5作目の発表がいつになるか分からないが、楽しみに待ちたいと思う。

 

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