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◯初めての方にお勧めの記事!

有栖川有栖著「鍵の掛かった男」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

 本日ご紹介するのは、有栖川有栖著「鍵の掛かった男」である。有栖川氏といえば、以前本ブログでもご紹介した、名探偵・江神二郎が活躍する学生アリスシリーズや、映像化もされている名探偵・火村英生が活躍する作家アリスシリーズが有名であるが、本作は後者に当たる。比較的長めの作品であるが、時間をかけてでも読む価値のある作品である。本日はその魅力をご紹介したいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                    

 

 

 

 

 

 

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~あらすじ~

大阪・中之島のホテルに2年近くにわたって長期滞在していた男が首を吊って自殺した。しかし、自殺する動機もなく不審に思った友人から、アリス・火村に調査の依頼があった。多忙によりすぐには動けない火村に代わりアリスが単身乗り込んでで調査を開始する。調査は難航し、男の素性や行動には謎が多く存在していた。多くの謎によって鍵が掛けられたこの男の正体・目的は?そして自殺の真相は?

 

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①有栖川探偵奔走!

推理小説ではよくあるパターンだが、初めのうちは探偵である火村は登場せず、助手のようなポジションであるアリスが情報収集を行うこととなる。今回アリスは情報を集めるためにかなり積極的に行動しており、その働きぶりは火村も認めている。火村からの指示に従って調査を進めていくのだが、自殺した男の来歴は謎に満ちており、日々の行動からも中々死の真相は見えてこない。そんな中、有栖の地道な捜査が徐々に実を結び、男に何重にも掛けられた鍵を解いていくのである。火村は序盤は電話で調査結果を聞き、安楽椅子探偵として活躍し、アリスに指示を送るのだが、アリスからの情報だけでかなり真相に迫っており、現場に登場後は犯人の動きもあって一気に事件を解決へと導く。このように、物語の終盤まで捜査の主体はアリスであり、探偵/刑事・アリスの活躍を楽しむことができる作品である。

 

 

聖地巡礼

物語の舞台となる大阪・中之島のホテル「銀星ホテル」。実はこのホテル、中之島に実在していたとか。現在、物語の設定の場所には三井ガーデンホテルがあるが、ここに以前銀星ホテルが立っていたのだそう。その他にも作品中には中之島付近の情景が細かく描写されており、実際に作品を読んだ後に中之島を歩くと実に楽しい。ちなみに私は、読んでから行ったのでは無く中之島付近に行ってベンチに座ってこの作品を読んでいたのだが、まるで自分が作品の中に入り込んだような感覚を味わうことができた。こういった感覚になれたのも、有栖川氏の情景描写のうまさ故だろう。本作品に限らず、モデルとなった場所で小説を読むという体験をぜひ他お試し頂きたい。

 

 

 

③真相

本作品は、大がかりなトリックが登場するわけでも猟奇的な殺人鬼が登場するわけでもない。鍵の掛かった男の死の真相は、現場である銀星ホテルのオーナーの実の父親が男であり、男が息子に遺産を残そうとしたのを、男に恨みを持つホテルの常連客が邪魔しようとしていたという、分かってしまえばあっけない物である。しかし、この作品ではこの真相に至るまでの物語が重要であり、ある意味死んだ男の人生を巡る物語と言っても過言ではなく、男の死やその犯人を見つけることはあくまでもその最後のピースでしかないのだ。人生とはこんなにも波瀾万丈であり得るのかと言うことを教えてくれる作品である。

 

 

 

 

~最後に~

本作は、本格推理小説としても優れた作品だが、地道な捜査が実を結ぶ刑事ミステリが好きな方にもお楽しみいただけるだろう。また、大阪・中之島と場所が明確にされており、現実に近い感覚で物語に入り込んでいただけると思う。長編ではあるが、物語に入り込むと一気に読んでしまうような面白さがある作品なので、ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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