湊かなえ著「母性」感想(ネタバレ含む)
~はじめに~
本日ご紹介するのは湊かなえ著「母性」である。本作は10年前に発売された作品であるが、現在映画が公開中の注目作となっている。さっそく読んでみたので感想を述べたいと思う。
以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい。
~あらすじ~
ルミ子は母に大切に大切に育てられ、ルミ子も母を愛し母の喜ぶことをしたいと考えていた。そんなルミ子も田所哲史と結婚して子供を授かり、自分も母のように娘を「愛能う限り」大切に育てていこうとするのだが・・・。
~おもしろいポイント~
①届かない愛
本作では、母から娘への愛そして娘から母への愛が双方の視点から描かれる。母も娘も互いを深く愛しているのだがとにかくそれがかみ合わず、すれ違い、状況はどんどん悪化していく。娘の視点からすると何気ないことや悪気のないことも、夫の実家で虐げられ心も体も極限状態の母には悪意のように感じられ、それでも娘を愛そうとするのだがうまくいかない。母が娘を、娘が母を愛すというごく一般的なことであり、私も含めて多くの人が特別に思っていないことがここまで難しいことであるということに気づかされ、愛や母性の在り方について考えさせられた。
また、母・ルミ子が娘を心から愛せない理由の一つにはルミ子が自らの母を最も愛しており何よりも母を優先するというやや歪んだ感情を持っていたこと、そしてそのルミ子の母が過去にルミ子の娘を守るために死んでしまったことが影響している。しかもこのルミ子の母の死にはさらに驚くべき事実が隠されており、物語の最終盤で明かされた事実により物語は終局を迎える。この急転直下の展開も本作の魅力といえる。
②幕間の描写
本作ではルミ子と娘の視点で交互に同じ出来事が描写されるのだが、さらにその間に高校教師同士がある高校生が飛び降り自殺をしたということついて話している場面が挟まれる。ルミ子と娘の話と併せて読むと、この自殺した高校生があたかも娘のように勘違いをしてしまうように書かれているが、実はこれは読者を騙すフェイクで自殺した高校生はルミ子の娘ではないことが終盤明らかになる。ほかにも短い幕間の描写の中には読者をおやっと思わせる描写がちりばめられており、思い本編の間で少しだけなごみを与えてくれているし、ちょっとした驚きを味わうことができる。
~最後に~
本作は割と短めの話ということもあり一気に読むことができた。親子や家族の在り方について考えさせられる。自分のご家族を思い浮かべながら読むとより一層感慨深いものになると思われるので、ぜひ一度読んでみていただきたい。