島田荘司著「魔神の遊戯」感想(ネタバレ含む)
~はじめに~
本日ご紹介するのは、島田荘司著「魔神の遊戯」である。この作品は御手洗潔シリーズの一作である。数多くある御手洗潔シリーズ作品だが、本作はちょっと毛色が異なり、シリーズファンは驚くことだろう。また、シリーズファンでなくとも十分楽しめる作品となっている。
以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい。
~あらすじ~
ネス湖付近の小さな村で連続バラバラ殺人事件が発生した。その犯行はまさに魔神がやったとしか思えない方法・残忍さであり、普段静かな村は恐怖に包まれる。村に来ていたミタライ教授と現地警察が協力し捜査を開始するが中々犯人は見えてこない。果たして犯人は魔神なのか?それとも・・・。
~おもしろいポイント~
①人知を越えた殺人事件
本作に限らず御手洗潔シリーズに広く言える傾向だが、事件の内容がとても人間がやったとは思えないような内容となっている。本作で言えば、絶えず空から鳴り響くおぞましい音や死体がとてつもない力で手足や首を引きちぎられていること、そしてバラバラにされた死体が各所に意味ありげに遺棄されていたことなどから、次第に村人達は獣や魔神のような人知を越えた存在ではないかと思い始める。それに対して御手洗がそれらを可能にするトリックを暴き、犯人を見つけ出すという流れである。こうした人知を越えた現象に合理的な説明をつけるという流れは、同じく御手洗潔シリーズの「アトポス」や「ネジ式ザゼツキー」など多くの作品で見られる。真相が分かってしまえばなんだそんなことかとあっけないものだが、作中の人々の気持ちになると魔神の存在をも信じてしまってもおかしくないと思う。人は恐怖の中では正常な判断ができないと言うことや思い込みや先入観が人を盲目にしてしまうことを実感させてくれる作品である。
②シリーズファンを欺く真相+α
本作最大のネタバレをすると、実は事件発生当初から現地警察と共に捜査を行っていた「ミタライ教授」は偽物であり、この偽物の「ミタライ教授」こそが犯人なのであった。正直私は途中で「ミタライ教授」が偽物で犯人であろうことには気付いていた。というのも、名探偵が連続殺人を止められないことはお約束ではあるが、あまりにもミタライが後手後手に回っていたためである。名探偵・御手洗は連続殺人を防げないことはあるが何も掴めないまま手をこまねいているほど無能ではないことはシリーズファンであればお分かりになると思うので、比較的多くの方がこの点には気付かれるのではないだろうか。しかしながら、この「偽ミタライ教授が誰なのか」という点はまんまと騙されてしまった。作中に、この殺人が起きている村出身で、被害者達に強い恨みがあり、被害者達を未来で殺したと言う精神疾患患者が登場するのだが、実は彼は犯人ではなく、彼のことを知った御手洗の教授仲間の一人だった。実は彼が犯人であることの手がかりは1ページ目から伏線が張られており、読み終わった後にそれを知るとやられたという気持ちになった。私のように「ミタライ教授」が偽物であることは見破っても、犯人や真相を全て見抜かれた方は少ないのではなかろうか。二重三重に謎を巡らしている点は見事としか言いようが無い。
~最後に~
本作は、御手洗潔シリーズの中でも最後の最後まで(本物の)御手洗が登場しないという珍しい作品である。最後まで登場しないだけあってその登場シーンは印象的であり、電光石火で謎を解き明かしていく様はまさに爽快である。ぜひ一度読んでみていただきたい。