おもしろいゲーム・推理小説紹介

おもしろいゲーム・推理小説紹介

推理小説、マンガ、ゲームなどの解説・感想

◯初めての方にお勧めの記事!

伊坂幸太郎著「モダンタイムス」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは伊坂幸太郎著「モダンタイムス」である。本作は「魔王」から50年後の近未来を描いた作品。魔王を読んでいなくとも楽しめる作品とのことで、新装改訂版の表紙が目についたこともあり読んでみた。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 




 



 




 

~あらすじ~

 システムエンジニアの主人公・渡辺拓海はある日仕事をほっぽり出して行方不明となった先輩に代わってある仕事に携わることとなる。その仕事は特に難しい仕事には思えなかったが進めていくと謎のプログラムが仕込まれていることがわかる。その謎を追った先に待っていたものは・・・。

 

 

~おもしろいポイント~

①監視社会の行く先

 本作は近未来?の設定であるが、特段考えられないような発明や状況は登場しない。むしろ物語の軸となる監視社会や情報操作については今現在正に大きな問題となりつつあり、読んでいて妙なリアリティがあり恐ろしくも感じる。過去の事件の真相を追究しようとした者を見つけ出し痛めつけ、時には殺してしまうという恐ろしい設定だが、それが本当には起こりえないと言い切れないのが怖い。この妙なリアリティにより物語に引き込まれ、没頭して読んでしまう点が本作の魅力の一つだろう。

 

②親玉は存在しない

 本作で何度も出てくる「そういうこと/システムになっている」というセリフ。今起こっている恐ろしい事象は特に誰かが悪意を持って仕組んだものではなく、そういう風になることがすでに流れに組み込まれており、真相を追求していってもボスのような悪の親玉は存在しないというのだ。実際最後に情報監視システムの会社に乗り込むのだがそこはごく普通の会社であり、社員たちは何も知らずに仕事を行っている。これも作中に言及されていることだが、役割が細分化されていくことでそれぞれが作業的に仕事として役割をこなしていき、それが最終的に誰に何をもたらすのかなどということは気にかけなくなるのだ。これを聞いて、確かに自分も「仕事だから」という理由で行っている作業が、最終的に社会にどんな影響をもたらしているのかなどということを気にかけたことはないし、おそらくそういう方がほとんどなのではないかと思う。別にそれが悪いとは思わないが、それが本作のような悪意なき悪を生み出しうると考えると少し考えてしまう。

 

③緻密な伏線の数々

 本作には伊坂幸太郎らしい緻密で計算されつくした伏線があちこちに張り巡らされている。特に作中に登場する井坂好太郎が吐くセリフの悉くが後半の伏線となっており、一部は明らかなもので読んでいて何となく予想できるのだが、そこも伏線だったのかと驚かされるほどあらゆる点が伏線となっており、推理小説とまではいかないが真相を予想する楽しみがある。ここまで伏線が多いと不自然な文章になってしまいがちなのだが、井坂好太郎のちょっと?変わったキャラクターという設定によりそれがうまく溶け込んでおり、またこのキャラクター設定も割とシリアスな内容に良いアクセントとなっており、全体としてバランスの良い作品だと感じた。

 

 

~最後に~

 あとがきで言及されていたが、本作は文庫化にあたって物語終盤で明らかとなる事件の真相が別の真相へと変わっているらしい。変更前の真相は詳しくは知らないが両方を見比べてみるのも面白いかもしれない。

 

 

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早坂吝著「四元館の殺人」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは早坂吝著「四元館の殺人~探偵AIのリアル・ディープラーニング」である。本作はAIの探偵とAIの犯人が登場するシリーズの3作目である。近未来の設定であり、普通の推理小説とは一味変わった作品である。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 



 




 

~あらすじ~

 前作で犯人AIの以亜に敗れて落ち込む探偵AI亜以。そんな中以亜は犯罪オークションを開き、とある犯罪をサポートすることを宣言する。これを知った亜以と合尾輔は犯罪の依頼主と思われる山荘を特定し訪ねるのであった。

 

 

~おもしろいポイント~

①以亜と亜以の再戦

 あらすじの通り、前作で以亜に敗れた亜以のリベンジマッチとなる。もちろんAIである以亜が直接物理的に殺人を実行するのは不可能なので誰かを通じてということになる。殺人を未然に防ぐべく乗り込んだ亜以だったが、あえなく殺人は起きてしまう(ミステリではどんな優秀な探偵も殺人を未然に防ぐことはできないが)。今回も以亜に亜以は負けてしまうのか。真相を推理しながらも二人のAIによるハイレベルなやり取りが見どころの一つだ。

 

②意外な犯人

 結論から言うと本作の犯人は以亜とは関係ない。もちろん前項に書いた通り、終盤に亜以と以亜のハイレベルなやり取りが交わされるのではあるが、犯人は別にいる。

 その犯人というのが私がこれまで読んできたミステリの中で最も意外だったといっても過言ではない。犯人AIの存在も他のミステリでは登場しない珍しいパターンだが、本作の犯人はそれをはるかに上回る意外さである。一応伏線や事前情報は読者に開示されており、本作が近未来であるという設定からある程度推理することも出来はするが、普通のミステリに慣れている方は最初の方に捨てる選択肢が正に真相であるパターンだった。犯人が意外ということ自体がネタバレではあるが、ぜひこの意外さを味わっていただきたい。

 

 

~最後に~

 本作は普通のミステリとは一味違った推理を楽しむことができる。人によっては不満を感じる真相かもしれないが個人的には大変面白く感じた。続編に期待したい。

 

 

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伊坂幸太郎著「シーソーモンスター」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは伊坂幸太郎著「シーソーモンスター」である。本作は「螺旋プロジェクト」という8作家による「共通のルール」によって繋がった作品を一斉に作るという新たな試みの中の一作である。まずはプロジェクトの発起人である伊坂氏の作品を読み終えたので感想を述べたい。

www.chuko.co.jp

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 



 

 

 



 

~あらすじ~

・シーソーモンスター

 昭和後期、バブル末期の話。ある家に嫁いだ妻は、姑とうまくやっていく自信があったものの同居すると何かと争いが絶えず夫は悩んでいた。妻は姑にいら立ち、ついには自分に危害を加えようとしているのではないかと不信感を抱いていくが・・・。

・スピンモンスター

 幼いころ自動車事故で自分以外の家族を亡くし心に深い傷を負った主人公。成長し、手紙のアナログ配達を請け負っていた彼は、仕事中見知らぬ男性から封筒の配達を頼まれたことをきっかけに思いもよらない騒動に巻き込まれていく。 

 

 

~おもしろいポイント~

①シーソーモンスター

 本作は2編に分かれており、前半は昭和後期・バブル時代を描いた「シーソーモンスター」である。主人公の妻は目が蒼い海族の人間、姑は耳が大きい山族の人間であるからどうやっても仲良くできない。と、ある日訪ねてきた保険の営業から話を聞いた妻ははじめは全く信じていなかったが、自分に当てはまることが多く徐々に信じていく。ちなみにこの保険の営業マンは「審判」と呼ばれ、どの時代にも姿かたちを変えて登場する海族にも山族にも属さない中立な存在だそう。審判といっても具体的に何か干渉することはなく、基本的には見守っているだけであるが、彼ら彼女らの存在が物語の一体感を出すとともに、登場人物たちの理解を助ける進行役にもなっている。

 実は妻はいわゆる公安のような存在でめちゃくちゃ強いため、身に降りかかる危機を乗り越えていくのだが、同時に姑こそがその犯人ではないかと疑ってしまう。しかし最後にはある危機をきっかけに二人は力を合わせて戦うことになる。海族と山族は決して仲良く離れないが、この物語のように必ずしも対立しっぱなしというわけではなく、時には争いながらも和解し協力できるようだ。これは現実でも対立しあう者同士が仲良く離れなくとも協力できるということを示すメッセージなのかもしれない。

 

②スピンモンスター

 前半のシーソーモンスターから数十年後の近未来の話が後半のスピンモンスターである。情報のデジタル化が進んだが、逆にデジタル情報は改善や消失のリスクが高いことも理解され、一周回ってアナログな記録や情報伝達が必要とされている時代。主人公は手紙を直接届けるフリーの配達員をしていた。

 その仕事途中に見知らぬ男性から依頼を受けることになるのだが、実はこの男性は人工知能の開発者で歯止めが利かなくなった人工知能・ウェレカセリを止めてほしいという内容だった(ちなみにウェレカセリは他の螺旋プロジェクトの作品に登場する人物の名前らしい)。男性の友人とともにウェレカセリの破壊に動くが、消されることを恐れたウェレカセリによって情報を操作され凶悪犯に仕立て上げられた主人公たちは警察に追われることになる。

 前半のシーソーモンスターで登場した妻の助けも借りながらウェレカセリの破壊に動くが、その途中で主人公は自分の過去や記憶と向き合い、悩み苦しんでいく。何が事実で何が嘘なのか、現代でもフェイクニュースが問題となり情報の信ぴょう性が下がり続けているが、近い未来にはこの物語のように情報の価値は0に近くなってしまうのかと思うと薄ら寒くなる。

 

③螺旋プロジェクト

 まだ1作しか読んでいないが、海族と山族の対立や審判なる人物たちの存在、物語のところどころに登場する共通のモチーフやシーンなどが垣間見えた。今後ほかの作品を読むことでそれらの繋がりがよりくっきりとしてくると思うので楽しみに読みたいと思う。

 

~最後に~

 螺旋プロジェクトの作品は続々と文庫化されている。なかなか読むのが追い付かないが自分のペースで読み進め、読み終わり次第感想を述べていきたいと思う。

 

 

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東野圭吾著「さまよう刃」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは東野圭吾著「さまよう刃」である。本作は18年前に発売された作品であるが、これまでに3回も映像化され、150万部を超えるベストセラーとなっている。そんな人気作をいまさらながら読んでみたので感想を述べたいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 

 











 

~あらすじ~

 妻を亡くし、男で一人で娘を育てる主人公。ある日娘は友達と花火大会に出かけるが花火大会が終わっても帰ってこない。心配になった主人公は娘の友達に電話をかけてみるがもう帰ったはずだとのこと。そして数日後、娘は遺体で発見される。娘の死の真相を知った男の行動は・・・。

 

 

~おもしろいポイント~

①終始胸くそ悪いストーリー

 娘は、強姦を繰り返していた若者集団に殺されてしまっていた。しかも犯人は強姦の映像をビデオで撮影したり、自殺してくれたらラッキーだと言ったりするなど所謂「くそ野郎」であった。父親は娘が蹂躙される姿を目にし、気が狂わんばかりである。東野圭吾らしい読みやすい文章ではあるが、若者たちの惨い行いや親の心理描写などは生々しく読んでいて胸糞悪くなるストーリーである。しかも最後まであまり救いはないのだが、東野圭吾特有の次々と先が読みたくなる文章であるため先へ先へと読み進んでしまう。

 

②正義の在り方

 本作では娘を惨たらしく殺された親が復讐を果たすべく行動していく。もちろん日本の法律で仇討は認められていないし、殺人は犯罪だ。しかし被害者の心情はそのような法律や倫理では計り知れない・・・とよくテレビでも言われているが、果たしてどれほどの人がこれを自分事として深く考えているだろうか。もちろん本作は小説で作り話ではあるが東野圭吾の描写力も相まって被害者の父親の心情が痛いほど伝わってきて、いったい正義とは、正しさとはどこにあるのだろうと本気で考えてしまった。使い古された議題ではあるが本作を読むと改めて考えさせられることだろう。

 

③ハラハラドキドキ

 本作では、復讐を誓う父親と加害者のみでなく、加害者の協力者にして密告者の若者や警察、さらに主人公以外の被害者遺族や子供を事故で亡くし思うところのある女性など様々な人物の視点から語られる。読者はそれらすべての情報を知っているが、この先どう言った展開になるかは読めず、終盤に差し掛かるほど父親が犯人を追い詰めて復讐を果たしそうになったり、警察も犯人に迫ったりと正にハラハラドキドキの展開である。こういった展開はまさに映像化に向いていると言え、3度も映像化されているのも納得である。

 

 

~最後に~

 本作は終始胸糞悪くなるストーリーではあるが、一気に読んでしまいたくなるような魅力のある作品である。内容的にも考えさせられる部分が多いので、ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

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麻耶雄嵩著「隻眼の少女」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは麻耶雄嵩著「隻眼の少女」である。本作は本格ミステリ大賞日本推理作家協会賞を受賞した作品である。本日はこちらの感想について語りたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 



 

 

 

 





 

~あらすじ~

 自殺のために昔訪れた山奥の村を訪ねた主人公。しかしそこで彼は残忍な連続殺人事件に遭遇する。探偵を名乗る隻眼の少女とともに事件解決を図るが・・・。

 

 

~おもしろいポイント~

①THE・名探偵

 本作では、母親が有名な探偵でありその名を受け継いだ隻眼の少女探偵として事件の解決に取り組む。彼女にとってはこの事件がデビュー戦であったが、初めてとは思えないほど見事な推理で真相へと迫っていく。作品中盤まで、わずかの矛盾や不合理から事件を解いていく姿は正に多くの方が想像する名探偵といった印象だ。

 

②名探偵の敗北

 前述のとおり隻眼の少女は名探偵として中盤で事件を解決するが、実はこの真相は誤っており、続く殺人を許してしまう。名探偵が連続殺人を許してしまうというのはもはや常識だが、本作では犯人が探偵をミスリードするために残した罠に嵌ってしまったという形で、名探偵が登場する作品では珍しい。確かに回収しきれていない伏線が非常に多く、一部の伏線からの絞り込みのみで犯人の特定を行っていたためスッキリしない感はあった。それでも何とか真犯人への糸口を見つけ、2度目の推理により一見事件は解決したように見えた。

 

③名探偵の復活

 作品中盤で一見解決したように見えた事件だったが、その18年後、主人公が村を訪れると再び事件が発生する。しかもその手口から18年前と同一犯とみられ、18年前の2度目の推理も間違いであったことが判明する。これに挑むのは18年前に事件を解決した隻眼の少女の娘。娘は母親と比べると頼りなさそうに見えたがその実力は確かで、18年前に母が見落とした不合理を見つけ、そして解決していく。18年前の2度目の推理でも確かに拾い切れていない伏線や謎が残されており、今回の推理でそれらが全て繋がって回収される。やはり2人の殺害を許してしまったが最後の殺人は何とか食い止め犯人を罠にはめて追い詰める。18年前に5人、そして今回は2人を殺しさらに殺人を続けようとしていた凶悪殺人犯の正体は意外過ぎるもので、その動機も恐るべきものだった。ここはぜひ読んで確かめていただきたい。

 

~最後に~

 中盤までは所謂ツンデレの隻眼少女探偵が不整合な部分に論理的解釈を与えて謎を解いていくよくある推理小説だったが、終盤犯人が判明することで様相が一変する。本格ミステリ大賞を取っただけあった一筋縄ではいかない奥深い作品だったので、ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

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辻村深月著「スロウハイツの神様」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは辻村深月著「スロウハイツの神様」である。本作は舞台化もされるなど話題となった作品である。本日はネタバレも挟みつつ感想を述べたいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 

 



 

~あらすじ~

 作家や小説家、脚本家など、その卵たちが集うスロウハイツ。そこに住む人々は様々な過去・現在を抱えていた。彼らの複雑な過去を振り返ると、思いもよらない真実が隠されていた。

 

 

~おもしろいポイント~

①チヨダコーキと赤羽環

 本作には現在スロウハイツに住んでいる人々や過去に住んでいた人々など、多くの登場人物が存在するが、物語の核はスロウハイツの実力No.1・天才作家のチヨダコーキ(千代田光輝、コウちゃん)とスロウハイツの持ち主で人気急上昇中の脚本家・赤羽環を中心とした物語である。コーキは知らない人はいないような有名小説家で、スロウハイツの住人たちは皆彼を好いている。人見知りで書き出したら周りの声も聞こえないなど癖は強いが皆から慕われている。数年前に「ある事件」に遭遇し執筆活動を中止していたが、見事復活し今も超人気小説家として君臨する。赤羽環は新進気鋭の脚本家で自称・スロウハイツのNo.2。プライドが高く自分を絶対に曲げない強さがあるが、実は弱さを無理して隠している側面もある。彼女の過去には壮絶な体験があり、それが現在の彼女を作っている。一見接点のなさそうな彼らだが、その過去を紐解いていくと意外な接点が隠されている。それは緻密な伏線として隠されており、ほかの登場人物の会話などと合わせて考えることで見事な一つの線となって終盤に見事に回収される。この終盤の見事な伏線回収は流石は辻村深月といった感じで、考えていた以上に多くの伏線が隠されていたことに気づかされる。

 

②個性豊かなスロウハイツの住人達

 前述の2人以外にもスロウハイツには住人がいる。彼らはマンガ家や脚本家、画家などの芸術家の卵たちで、前述の2人のようにデビューして人気を博しているわけではないが、その才能や性格を環に認められスロウハイツに住むことになる。彼らにもそれぞれ複雑な過去や現状、隠された秘密があり、それらが物語に起伏をもたらす。彼らの感情は芸術家ならではともいえるし、だれもが抱えているわだかまりであるとも言え、ある点では共感できる部分も多い。彼らの感情を感じるだけでも十分楽しめるし、彼らの行動の裏に隠された真実や伏線を考えても面白い。

 

 

~最後に~

 序盤はそれぞれの人生を紐解いていく感じで繋がりが見えてこないが、そこは辻村深月。終盤に圧巻の伏線回収と怒涛の展開が待っている。個性豊かな彼らの物語に飽きることはないと思うが、ぜひ最後まで読み切ってほしい作品である。

 

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青柳碧人著「むかしむかしあるところに、死体がありました。」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは青柳碧人著「むかしむかしあるところに、死体がありました。」である。本作は昔話を基にしたミステリとして注目を集め続編も発売されている。本日はネタバレも挟みつつ感想を述べたいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 

 





 

~あらすじ~

 一寸法師、花咲かじいさん、鶴の恩返し、浦島太郎、桃太郎。どれのみんなが知っている物語だがなんだか様子が違うようだ。そのの裏・先にある真相とは?

 

 

~おもしろいポイント~

一寸法師の不在証明

 一寸法師が鬼を退治した頃、近くで殺人が発生。現場の入口はちょうど一寸法師だけが通れる程度に開いていたが、死体が目撃された当時彼は鬼の腹の中にいた。完璧と思われた不在証明。しかも打ち出の小槌は自分に対しては掛けられず、また生き物以外(無生物や死んだ生物)には効果が無いため一寸法師の無罪は明らかと思われた。しかしそこには一寸法師のずる賢い策略が潜んでいた。

 トリックの肝は打ち出の小槌で小さくした被害者の首に縄を掛け、外から再度打ち出の小槌で被害者を大きくすることで首を絞めて殺害したのだった。

 よく知っている一寸法師の物語が本格ミステリに変貌し驚いた。しかも伏線やヒントの出し方もうまく、ミステリ小説としての完成度も高いと思った。

 

②花咲か死者伝言

 花咲かじいさんが殺害された。村人達は犯人を捜すが中々見つからない。花咲かじいさんが飼っていたシロに似た野良犬も犯人を捜すが、鼻が悪いことも災いして中々見つからない。しかしやっと犯人を見つけた野良犬が取った行動とは?

 この物語では1編目とは異なりトリックよりは犯人や犯人を見つけた野良犬がとった行動が面白い。ズバリ犯人はおばあさんで、シロのおかげで手に入れた財宝をおじいさんが簡単に寄付したりして手放したことに我慢できなかったのだ。それに気付いた野良犬はおばあさんの畑にトリカブトを植え、植物に詳しくないおばあさんが将来それを食べて死ぬようにした上で殺された。

 本来の花咲かじいさんのようなハッピーエンドから一変し、ブラックジョークに満ちた真相・結末が面白かった。

 

③つるの倒叙がえし

 自分を助けてくれた男のために高価な布を織ったツルだったが、欲に目がくらんだ男はツルにもっと布を織るようにいい、どんどん人が変わっていく。男とツルの行き着く先とは。

 本編では犯人捜しと言うよりはタイトルの通り物語が無限に繰り返される点が面白い。物語序盤で借金を返せと言いに来た庄屋を殺してしまった男だったが、ツルの織る高価な布に目がくらんだ男はツルに布を織らせて成り上がり、遂には庄屋になってしまう。そして過去の庄屋のように金を貸した親友に金を返せと取り立てに行き、物語は無限に繰り返されていくのである。

 章を飛ばしながら読むことで、物語がループしているように読むことができるようになっており、うまい作りとなっている。個人的には少し物足りない気がした。

 

 

④密室龍宮城

 浦島太郎が連れられた竜宮城で伊勢エビが殺された。しかし伊勢エビは密室の中で死んでおり、自殺と思われた。浦島太郎は推理をしていくが真相は?

 本作では浦島太郎が探偵役として推理していくが、実は誤った真相に辿り着いてしまう。本当の犯人は浦島太郎を連れて来た亀で、復讐のために伊勢エビを殺し、更に浦島太郎に誤った犯人を推理させてもう一人のターゲットも追い込んだのだった。事件の肝は「ととき貝」と呼ばれる竜宮城で息ができるようにする貝。実は「止時貝」と書き、一定の範囲内の時の流れをゆっくりにするという効果があり、亀はこれを使って密室を作りだしたのだった。

 止時貝の真相も面白かったが、この止時貝の効力を示すヒントとして乙姫の従者の「わかし」が成長してしまって「ブリ」になってしまい、不審者と思われて追放されたシーンが印象的だった。

 

⑤絶海の鬼ヶ島

 浦島太郎が去った後、生き残った鬼達の物語。平穏に暮らしていた生き残りの鬼とその子孫達だったが。ある日一頭の鬼が殺され、更に次々と鬼が殺されていく。一頭、また一頭と殺されていき遂に誰もいなくなる。

 「そして誰もいなくなった」をベースにしたような作品。死んだと思われた鬼の中に犯人がいたパターン。しかも犯人の鬼は、桃太郎が生き残った鬼に惚れて成した子だったというトンデモ展開。これまでの4編の物語に登場した道具も登場していたがやや無理矢理感がある。また犯人の鬼が浦島太郎の子どもと示すヒントはあるが、そもそも人間と鬼が子を成すことができるという点は示されていない。最後に置く物語としてはややいまいちだった。

 

 

~最後に~

 全体を通して、昔話をベースにしたミステリという点は面白かった。ミステリの完成度としてはいわゆる本物にはやや劣る部分もあるが、読み物としては十分楽しめる作品であった。続編も出ているのでそのうち読んでみたいと思う。

 

 

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道尾秀介著「いけない」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは道尾秀介著「いけない」である。本作はこれまでに無い方式での謎解きや結末が楽しめるミステリとして話題を呼んだ。本日は私なりの解釈と感想について述べたいと思う。ネタバレ要素満載なので未読の方はご注意いただきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 

 



 

~あらすじ~

 ある町で起こるいくつかの事件。それらの事件は表面上解決され時代は進んでいくが、そこには隠された真相がある。各章の最後に挿入された1枚の写真には文章では語られなかったその章の真相が映り込んでいる。写真に隠された真相とは?

 

 

~おもしろいポイント~

①弓投げの崖を見てはいけない

 「弓投げの崖」という自殺のスポット近くのトンネルで事故が発生。事故を起こした若者達は相手の運転手がまだ息があったにもかかわらずハンドルに叩き付け、金を奪って逃走。

 その後の警察の捜査で容疑者が浮上したがその矢先にその一人が事故のあったトンネル近くで頭を殴られて殺害された。警察は殺害された容疑者の仲間を取り調べるがうち一人が被害者の妻に復讐に向かったことが判明。警察官の男性は被害者の妻の元へと急ぐ。

 この物語では中盤で、被害者の男性はハンドルに頭を叩き付けられたが生きており、死亡したのは男性の息子であったことが明かされる。被害者の男性は盲目になっていたが、執念で容疑者の若者を待ち伏せて殺害したのだった。そして最後に男性は妻に止められながらも復讐を続けるために家の外に飛び出し、直後に車が何かをはねる音がしてこの章が終わる。

 最後のページに載せられた写真には事件のあったトンネルと被害者の自宅の場所、周囲の施設などが載った地図が記されている。この写真と本編の文章を読むと最後の場面で車に撥ねられたのが誰か想像が付くというわけだ(あくまで想像で、真実は後の章で語られる)。撥ねられた候補は、被害者の男性・被害者の妻を殺そうとする容疑者の仲間・被害者の妻を助けようとする警察官の3人。地図と文章からはねた車は被害者男性の自宅を左に見ながら通過しようした際に右から飛び出した人をはねたことが分かる(この時点で被害者の男性は除外される)。また、容疑者の仲間は近くの商店街を南に抜けてから被害者宅へ向かおうとしているのに対し、警察官は途中で横道に抜けている。被害者宅の正面に出ている道は警察官の通った横道であることから跳ねられたのは警察官ではないかと予想できる(被害者の仲間の可能性もなくはない)。

 

②その話を聞かせてはいけない

 中国から引っ越してきて中華料理店を営んでいる中国人の家族。そこの息子はある日、万引きに入った文具店で店主が殺されている可能性に気付く。

 名前のことで馬鹿にされて友だちがいなかったその子は見たことを誰にも話せずにいたが、嫌っているクラスメートに詰め寄られ打ち明けてしまう。しかし見間違えだと言われてしまい、再び文具店を尋ねると殺されたと思った店主のおばさんは生きており、勘違いだったと安堵する。

 しかしその夜のニュースで、文具店のおじさんが死体で見つかったとの報道がある。真相に気付いたその子は文具店のおばさんとその甥に拉致され、弓投げの崖に落とされそうになる。果たしてどうやって助かるのか。

 この章の最後に挿入された写真はおばさんと甥がインタビューを受けるニュース画面で、画面の端に子どもが車に忍び込む姿が映っている。おそらく主人公の子どもが唯一殺人現場を見たことを話したクラスメートが車に忍び込んでおり、崖で主人公の子どもが落とされそうになった時におばさんと甥を崖下に突き落としたことが分かる。その後の章で嫌っていたこのクラスメートと主人公の子どもが仲良しになって遊んでいる場面がある。

 

③絵の謎に気づいてはいけない

 ある宗教団体の女性が自宅のドアノブに首を吊って死んでいるのが発見された。事件を捜査していった先輩刑事と新人刑事のペアだったが、その途中で被害者が住んでいたアパートの管理会社社長が死体で発見された。

 一緒に発見されたメモ帳にはその社長が犯人に気付き、犯人を脅して金を取ろうとしていたことと、電話で話している隙に犯人が何か現場をいじったこと、ドアノブよりも上で首を吊っているような絵が描かれていた。おそらく社長は犯人に逆に殺されてしまったのだろうが、絵の意味がさっぱり分からない。また、犯人が鍵の掛かった密室で被害者を首つりで殺した方法も分からないままだった。

 行き詰まった刑事ペアだったが、二人で飲んでいるときに新人の刑事がスマートロックにより外側から鍵を掛けた可能性に気付くが、翌朝死体で見つかり事件は自殺として処理される。

 この章の最後に挿入された写真にはメモに書かれた絵が映っている。しかし描かれているのは死体ではなく、ドア上部のスマートロックを矢印で示した絵だった。本編中に書かれていたドアノブより上で首を吊っているような絵はこの絵を隠すために書き足された物だったのだ。新人刑事のペアだった先輩刑事は新興宗教の信者で、真相に気付いた者を殺していた。

 

④街の平和を信じてはいけない

 この章ではこれまでの真相が暗に語られる。1章で事故に遭い盲目になった男性は、これまでの復讐を妻に紙に書いてもらい、自首しようと刑事に会いに行く。

 一方その相手の刑事は、新興宗教信者として信者がスピード違反で起こした死亡事故をもみ消したり(1章)、その事を告白しようとする信者を自殺に見せかけて殺し、更に真相に気付いた新米刑事も殺したり(3章)して疲れ果て、自白した手紙を鞄に入れていたがまだ誰にを渡せずにいた。

 刑事に手紙を渡しに行く途中で自転車に乗った子ども2人と出会う。この子どもたちは2章で出てきた中国人の子どもとそのクラスメートだ。中国人の子どもは幼稚園の時、友だちにいじめられていたところを盲目になった男性に助けられて感謝していることを伝える。刑事に告白文を渡した男性だったが、子どもの感謝の言葉を聞き、もう少し妻と一緒にすごそうとそっと手紙をカバンから抜き出す。しかしその手紙は刑事が書いた方の告白文であった。

 それに気付いた刑事はこれで自分の罪が全て明らかになると考えるが、盲目の男性は気付いて折らず手紙を破り捨ててしまう。一方刑事の下に残った男性の告白文を見た刑事だったが首をかしげるのだった。

 この章の最後に挿入された写真は白紙の便箋。盲目のため妻に代筆してもらった男性だったが妻は書く振りをして何も書いていなかったようだ。こうして誰の罪も明らかにされないまま街には平和な時が流れる。

 

 上述の通り、舞台となったこの街では様々な凶悪な事件が起こっているにも関わらずそのほとんどが表に出てきておらず、偽りの平和を享受しているように思われ不気味さを感じる。またそれぞれの事件も人間の醜さや恐ろしさが感じられ、道尾秀介らしい作品に思われた。

 

~最後に~

 本作は読者に真相の解釈を委ねる、あえて文章で真相を記さないというこれまでのミステリと一線を画する試みが成されている。解釈は人それぞれのため真相は上述したものの一つではないかもしれない。一度呼んだかもぜひもう一度読んで他の真相を想像してみてはどうだろうか。

 

 

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辻村深月著「かがみの孤城」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは辻村深月著「かがみの孤城」である。本作は2018年に本屋大賞を受賞した作品で、2022年に劇場アニメ化が発表され再び注目を集めている。ミステリでは無いが真相を予測して読んでいく展開は似ているので読んでみた感想を述べたいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 

 

 

~あらすじ~

 主人公はあることが原因で学校に通っていない中学生。彼女はある日部屋の鏡が光っているのを見つけそしてその中へと吸い込まれ、現実のものとは思えない城にたどりつく。そこで出会ったのは狼の面をした少女。集められたのは主人公と同年代の7人の少年少女達。彼女たちに待っていたものとは?

 

 

~おもしろいポイント~

①涙が止まらないストーリー

 本作で登場する7人の子どもたちは、全員が何らかの理由で学校に行けていない、もしくは希望する学校に通えていない。彼女たちが抱える事情はそれぞれで、合わない友だちがいたり、親の方針だったり、本人の性格の問題だったり様々だ。彼女たちが置かれている状況を考え、周囲の心ない言葉や理解の無い態度、恐怖、不安が巧みに描写されており、登場人物に感情移入してしまうと涙が止まらなくなる。どうか彼女たちの冒険の結末がハッピーエンドでありますようにと願わずにはいられない。

 

②謎だらけの世界

 鏡に吸い込まれて集められた7人達は辿り着いた城でなんでも一つだけ願いが叶う鍵を探すように言われる。物語終盤まで7人ともそれほど必死になって鍵を探す描写は無く、似た境遇の仲間が集まったこの空間でのひとときを楽しむことがメインに描かれてはいるが、やはり最大の謎は鍵はどこにあるのかという事だろう。他にも、集められた7人の関係性狼の面をかぶった少女の正体、この城の存在意義など物語中には謎がいっぱいある。それらの謎を解くためのヒント・伏線は実は序盤からあちこちに散りばめられており、それらを終盤に一気に回収していく様は爽快だ。こういった展開はミステリ小説にも通ずるものがあると思う。おそらく一部の謎についてはおおかた察しが付く読者も多いだろうが、全ての伏線に気付き全ての謎を解いている読者は少ないのでは無いかと思う。

 

③主人公の成長

 主人公の少女はあることが理由で学校に通っておらず、今では外に出ることすら恐ろしいと感じるまでになってしまっていた。そんな彼女が、不思議な城で似た境遇の仲間達と出会い、ぶつかりながらも対話を重ね絆を強めていく。現実では会うことの無い彼らだが、城での経験は彼らの心境にも変化をもたらし、現実でもこれまではとても無理だったような行動を取ることもできるようになっていく。そして終盤には主人公は一人でみんなを助けるような行動すら取っている。そういった仲間との成長を見られるのも本作の魅力だ。しかし一方でそういった魅力があるからこそ、中盤で明かされる「願いを叶えるとこの城での記憶は全て無くなる」という条件が主人公達を、そして読者を苦しめる。

 

 

 

~最後に~

 本作は「不思議の国のアリス」を現代風に落とし込み更にひねりを加えたような作品だった。前述の通り時折涙してしまうほど感情移入しやすい文章・魅力的なストーリーであった。今後アニメを見る方も、見る予定の無い方もぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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神永学著「心霊探偵八雲2 魂をつなぐもの」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは神永学著「心霊探偵八雲2 魂をつなぐもの」である。本作は以前ご紹介した「心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている」の続編である。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 





~あらすじ~

 前作で晴香と知り合うことで徐々に他人に心を開くようになった八雲。今日もまた後藤刑事が持ち込んだ事件に関わることになるのだが、そこで自分の過去に触れていくことになる。

 

 

~おもしろいポイント~

①幽霊からの手がかり

 本作の特徴は、前作同様死んだ人間などの霊が見え、声を聞くことができる主人公・八雲の存在である。前作では、幽霊から割とヒントをもらっていた印象だったが、本作では幽霊からの言葉はほんの一言程度で、そこから真相へと迫っていく。幽霊が見えるという設定は活かしつつも、前作よりミステリ要素の強い作品となっている印象だ。

 

②一見無関係に見えて一つに収束していく

 ミステリでは、一見無関係に思える複数の事件がかわるがわる記述され、終盤でそれらが実は一つに繋がっていた、という展開が定番の一つとなっている。本作も少女の誘拐殺人事件と警察署長の娘が霊に取り憑かれているという2つの事件や晴香が友人から受けた相談が、一見無関係に見えて全てが緻密に絡み合っている。しかもそれらが一つに収束していくのだが、実は複数の事件が同時に起こっているという事が明らかとなり、良い意味で期待を裏切ってくれる

 

③気になる続編

 本作では終盤、事件の裏で八雲の父が関与していたことが明かされ、父から八雲に電話まで掛かってくる。八雲の父とは何者なのか、一体何が目的で事件を引き起こしているのかなど、明かされないまま物語は終結し、続編が気になる内容になっている。

 

 

 

~最後に~

 本作は前作の続編と言うことで、設定や登場人物が受け継がれているためすんなりと読むことができた。続きが気になる内容になっているので、機会があれば続編も読んでいきたい。

 

 

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辻村深月著「凍りのくじら」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは辻村深月著「凍りのくじら」である。本作は本屋でたまたま見かけて手に取った作品だが、期待を遙かに上回る傑作であった。本記事ではその魅力を語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



~あらすじ~

 芦沢光-25歳。新進気鋭の写真家。彼女の写真のルーツは高校生の頃に体験した「少し不思議」な物語だった。

 

 

~おもしろいポイント~

①著者のドラえもん

 本作は、各章にドラえもんの秘密道具の名前が冠されており、その秘密道具に類する内容が展開されている。もちろん実際に秘密道具が物語の中で活躍するわけでは無いのだが、主人公の体験は秘密道具になぞらえており、その説明や流れから主人公(もしくは著者)のドラえもんへの愛を感じる。読んでいるともう一度ドラえもんを見直して見たくなる。

②少し不思議な物語

 作中、主人公は周りの人を「少し、ナントカ(Sukoshi ○○)」と心の中で呼んで遊んでいる。ナントカの部分にはFから始まる単語が入り、例えば「不幸」、「不足」、「フラット」などである。これは、藤子・F・不二雄先生が「SF」のことを「サイエンス・フィクション」ではなく、「すこし・不思議」と表現したことに由来している。この「少し、ナントカ」は主人公が達観していて周りをある意味見下している象徴的な記述でもあるが、物語の最後には主人公の一連の体験が本当に「少し不思議」な体験であったことが明らかとなり、物語の最初から最後まで「少し、ナントカ」がキーとなる作品である。

 

③感動、驚き、そして穏やかなラストへ

 物語は、主人公を取り巻く状況(友人、母親、恋人)が次々に変化しながら進んでいく。その中でまず心を惹かれるのが母親の最期である。主人公の父は数年前にガンで余命わずかになり、家族の前で死ぬことを恐れて失踪した。そして主人公の母もまたガンを患い入院している。主人公はそれまで母親とはあまり仲が良くなかったが何度も病院を訪ね話を重ねる。そんな中、出版社の人が写真家だった父の写真集を出版したいと持ちかけてくる。病気の母の負担になると主人公は反対するが、母は穏やかに了承した。それは自分の最期を悟った母が娘に贈る最期のプレゼントのような物で、物語終盤に内容が明かされるその写真集に綴られた母の娘への想いに涙が止まらなくなった。

 次に印象に残るのが最期に明らかになる「少し(?)、不思議」な内容である。作中主人公は、別所あきらという先輩と何度も行動を共にし、これまで周りの誰と話していても本音を話せずにいた主人公が、彼には本音を話し、親しみを感じるようになる。しかし作中、彼に関しての記述はどこか浮き世離れしており、発言にも意味深長なものが多い。また、彼の行動や周りのリアクションを良く読むと明らかにではないものの不自然な部分が目立つ。そして最期に彼の正体が父の幽霊であることが明らかとなるのだが、そのタイミングが絶妙で、前述の母の死と併せて、終盤感情が何度も激しく揺さぶる。

 そしてラスト、命を左右する緊迫した場面から一転し、現在に戻ってきた主人公が描かれる。そこには、少し不思議な経験を経て成長した彼女がいて、とても穏やかで平和な時が流れている。ドラえもんでどんなに危機的な状況に陥っても最後はほっこりさせられるように、本作もまた穏やかなラストを迎える。

 

 

 

~最後に~

 本作はドラえもんを作中に盛り込んだという点で特徴的で注目されるが、それはもちろんながら、辻村氏の読者を物語に引き込む力を存分に感じた作品であった。作品を通して、親しみ・憤り・安らぎ・感動・驚きなど様々な感情が私の中に生まれ、ここまで感情を揺さぶられた作品は久しぶりであった。機会があればぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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神永学著「心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている」を語る(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは神永学著「心霊探偵八雲1 赤い瞳は知っている」である。心霊探偵八雲シリーズの記念すべき1作目で、主に3つの短編から構成されている。大人気シリーズの始まりがどういったものであったか見ていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 

 

~あらすじ~

 斉藤八雲は片眼だけ開いて生まれ、しかもその片眼は朱く死んだ人間の魂が見えるという。そんな彼の下にやってくる依頼はちょっと変わった物ばかり。めんどくさがりながらも捜査を続けていった先には、死んだ人間の声が聞ける彼にしか解決できない事件が待っている。

 

 

~おもしろいポイント~

①開かずの間

 ある大学生グループが廃屋で肝試しを行い、幽霊を見て逃げ出した。その後一人は失踪し、一人は電車に轢かれて死に、もう一人は熱を出して意識不明になってしまった。意識不明の友人を助けるために八雲のもとを訪れた晴香。八雲は乗り気では無かったが結局調査を行うことに。

 通常推理小説では、ここから被害者の証言や現場の物証から真実を解明していくが、八雲は違う。意識不明の友人に取り憑いた霊からのメッセージを受け取ったり、晴香に憑いている晴香の姉に助けてもらったりと、通常ではあり得ないことの連発だ。そういった霊達の声に耳を傾けることで八雲は真相へと迫っていくのである。

 

②トンネルの闇

 交通事故で毎年死者が出ているトンネル。そこを通った車は心霊現象に遭遇し事故に遭ってしまうと言う。ある日合コン帰りに晴香を乗せた車もそのトンネルで危うく事故を起こしそうになる。更にその場で幽霊も見てしまった晴香は八雲に相談する。除霊はできないと言いながらも調査を始めた八雲。その先には想像以上に深く暗い闇が待っていた。

 よくある心霊体験物かと思いきや、捜査を続けていくとどんどん人間の闇が見えてくる。真相自体は驚くべきものではないが、幽霊なんかより人間の方が恐ろしいと感じる作品。また、他人に冷たい八雲が前回の事件で晴香との絆が深まり必死に守ろうとする姿に、八雲の心情の変化を感じる。

 

③死者からの伝言

 ある日晴香のもとに親友の霊が現れ、「逃げて!」と訴えかけてきた。心配になった晴香は近くの親友の家を訪ねるが応答はない。そこで晴香は八雲に相談することにしたのだが‥。

 調査を進めると親友だと思っていた友達の知らない一面が次々に明らかになっていく。親友はある事件に関係しており、晴香はその真相に近づいてしまったために犯人に拉致され殺されそうになる。晴香を探す八雲は必死で、二人の間に固い絆ができていることを感じさせる。

 

 

 

~最後に~

 本作は、主人公・八雲の霊が見えるという特殊設定をうまく演出に使いながら事件を解決に導いている。また、登場人物達の人間関係の変化も見どころだ。短くて読みやすいのでぜひここから心霊探偵八雲シリーズに手を出してみてはいかがだろうか。

 

 

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まさきとしか著「あの日、君は何をした」

~はじめに~

本日ご紹介するのはまさきとしか著「あの日、君は何をした」である。「完璧な母親」などで知られるまさきとしか氏。本作もそれに並ぶ傑作ミステリという事で読んでみたので感想を述べたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 







 

 

 

 

~あらすじ~

 ある幸せな家庭で育った少年が逃亡中の殺人犯を捜索中の警察に追いかけられ事故死した。それから十数年後、ある平凡な家庭の夫が行方不明となった。2つの一見全く無関係とも思える事件。両事件の関係者や警察達がそれぞれ事件の真相を追いかけていった先には意外な結末が待っていた。事件のあった日少年は何をした?

 

 

~おもしろいポイント~

①事件関係者のその後

 ミステリではしばしば、事件を捜査する探偵や警察目線で物語が進む。本作でも警察目線で進むパートはある。しかしながら印象に残るのは被害者の家族など関係者の描写だ。ある関係者は家族の死をすぐに忘れてしまい悲しめない自分を責め、ある関係者は家族の死を受け入れられずにおかしくなり、またある関係者は家族を疑い出す。小説として読むとちょっと異常な登場人物として映ってしまうが、実際事件関係者の心情は我々では想像できないほど大きく揺さぶられると思われ、この小説での描写もあながちか条では無いのだろう。

 

②2つの事件の接点

 あらすじで書いたとおり、この物語中では2つの事件が発生する。一見両事件には関連性が見いだせないのだが、終盤怒濤の展開で2つの事件の接点が明かされる。終盤までほとんど両事件の接点は語られていない状況で一気に展開が変わる流れは爽快だ。前述した事件関係者の苦悩が悲しくも新たな事件を生んでしまうストーリーとなっており、事件関係者の心のケアの必要性を考えさせられる。

 

③ぞっとするラスト

 本作の大筋は前述の通り2つの事件の接点を明らかにしていくというものなのだが、ラストでちょっとゾッとする話が待っている。物語の始めに殺人犯と間違えられて警察に追いかけられ事故死してしまった少年。事故が起こったのは真夜中で、なぜそんな時間に少年がそこにいたのか、追いかけられてなぜ逃げたのかについては最終盤まで語られない。警察も推測を述べるが証拠は無く推測の域を出ない。そしてラストで神の目線あの日少年が何をしたのかが読者に明かされるのだが、その真相はこの物語で一番ゾッとする内容になっている。

 

 

 

~最後に~

 それほど長い物語ではなくサクサク読める作品であったが、サクサク読めたからこそあまり考えずに読んでしまい、ラストの展開の意外性を楽しむことができた。あの日少年が何をしたのか気になる方はぜひ読んでみていただきたい。

 

 

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西澤保彦著「パズラー」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは西澤保彦著「パズラー」である。本作は6つの短編からなる短編集である。西澤氏と言えば、以前このブログでもご紹介したSF推理小説で名高いが、もちろんそれ以外の作品も高い完成度を誇っている。本日は各短編のあらすじと感想を述べたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ・おもしろいポイント~

 

①蓮華の花

【あらすじ】同窓会に参加した作家の主人公はそこである同級生の死を知る。しか    し、以前彼が聞いていた話とは死んだ同級生の名が異なる。一体なぜこんな齟齬が生じ  たのか。様々な説を出して調査していった先に主人公は、自分の人生を左右する真相に思い至る。

【所感】最後まで明確な真相が明らかになるわけではないが、主人公がこれまで築き上げてきた人生が、自分だけの力ではなかったのかと思い至り、薄ら寒い気持ちになっている様子が読み手にも伝わって来て、特に最後の一文はゾッとするようなインパクトがあった。

 

②卵が割れた後で

【あらすじ】ある草地で学生の遺体が発見された。遺体には腐った卵が付着していた。事件を捜査していくと、被害者の周りには殺人の動機になり得る事情を抱えた学生達がいたが、彼らの証言と遺体の状況にはどうも食い違う部分がありしっくりこない。事件の全体像はいかに。

【所感】事件自体は比較的シンプルな物だが、舞台がアメリカということもあり背景の理解にやや時間が掛かった。捜査情報に基づいてあれこれ仮説を立てては否定されていくのだが、最後に辿り着いた真相は序盤に巧妙に張られていた伏線を見事に回収する物で、西澤氏の才能を垣間見た。

 

③時計仕掛けの小鳥

【あらすじ】主人公は高校に進学し、通学路が変わったことで小さい頃通っていた本屋を再発見し立ち寄った。そこで購入した本を読んでいると、中には定規で書かれたような文字で「三好書店にこれを売れ」と書かれたメモが挟まっていた。始めは中古本を売りつけられたと憤っていた主人公だったが、冷静に事実を整理していくと様々な疑問に思い至る。書店の店主の過去や自分の過去と併せてあれこれ想像を巡らせていった主人公は、最後にとんでもない仮説に辿り着く。

【所感】限られた情報から、主人公が必死に仮説を立てては否定しを繰り返して真実に迫っていく様子が印象的。また、真相とおぼしき仮説に辿り着いた主人公の行動も、普通の推理小説とは異なっており、高校生という年齢も相まって大人になるとはそういうことなのだろうかと考えさせられてしまった。

 

 

④贋作「退職刑事」

【あらすじ】刑事が帰宅した後、彼の父がある事件について聞いてきた。既に犯人が自供しており特に不思議な点もなかった事件であったが、彼の話を聞いた父は細かい点に注目し質問してくる。父の質問に答えていくと、明らかにおかしいわけではないがよく考えてみれば納得いかないような点が次々と見出され、事件は当初の想像とは違った方へと展開していく。

【所感】正に安楽椅子探偵だ。当初事件は特に不思議な点がなかったが、話が進むにつれてどんどん謎が深まっていく。しかし最後にはきれいに伏線も回収してスッキリした真相を見せてくれた。

 

 

⑤チープ・トリック

【あらすじ】ある廃協会で首が切断された死体が見つかった。死体は地元で有名な悪ガキで、悪ガキの仲間は次は自分が狙われると主人公に助けを求めに来た。話を聞くと、殺害時に仲間は一緒に居たらしいのだが、どう考えても脱出不可能な密室の状況だったと言う。その話を聞いた主人公が取った行動とは。

【所感】西澤氏に珍しい密室物。とはいえ単なる密室トリックというよりは、それが使用されたシチュエーション・背景が肝となる。ただの密室トリックと思って推理しながら読んでいると最後の結末にゾッとすることだろう。

 

 

⑥アリバイ・ジ・アンビバレンス

【あらすじ】同級生の男子が殺害されて見つかった。同じく同級生の女子が自分が殺したと自供している。しかしながら、実は主人公は事件のあった時間にその女子と男性が一緒に居るところを見ており、しかも数時間建物の中に留まっていたことを知っており、その女子にはアリバイがあることを知っている。なぜ彼女はアリバイがあるのにそれを主張せず自分が犯人だと主張しているのか。分かっている事実を基に推理をしていった先に待っていた彼女の目的とは。

【所感】6つの短編の中で最もうまいと思った作品。通常、アリバイを主張して犯人ではないと主張するのとは逆に、アリバイがあるのに犯人だと主張する理由を考えるというアイデアが素晴らしい。しかもその真相は個人的に納得のいくもので、「なるほど」と感嘆した。後味が良い真相ではないがスッキリと読み終えることができた。

 

 

 

 

 

~最後に~

 本作に収録された6編は、いずれもストレートなミステリというよりはちょっと意外な真相というものが多い。「パズラー」の題名の通り、散りばめられたヒントを拾い集めながら論理的に組み立てていくことでその意外な真相が明らかになっていく。ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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伊坂幸太郎著「夜の国のクーパー」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは伊坂幸太郎著「夜の国のクーパー」である。本作は伊坂氏の小説の中でも最も本格ミステリー度が高いとの触れ込みから、本格ミステリーファンである私は大変興味を惹かれ、手に取った作品である。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

見知らぬ土地で目覚めた主人公。縛られて身動きが取れない彼の上には一匹の猫がいた。そしてその猫が突如「ちょっと話を聞いて欲しいんだけど」と話し出す。猫が話すのは猫が住んでいる国の話。話を聞きながら主人公は様々な考えを巡らせる。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①自国と敵国、猫と鼠

 本作では戦争で負けたある国に、勝った敵国の兵が占領軍としてやってくるところから始まる。その後起こる様々な事件を、猫が見聞きし、その内容を主人公に語っていくのである(主人公はなぜか猫の言葉が分かった)。

 一方人間同士の衝突の裏で、もう一つの衝突が起こる。猫と鼠の衝突である。猫は本能的に鼠を見かけると追いかけたくなるが、鼠はその事を占領軍と共に外から来た鼠の言葉によって初めて疑問に思い、猫との対話を試みるのである。猫は鼠が、鼠は猫が自分の言葉を理解するとは思っておらず、猫は鼠を襲うことを虫を潰す程度にしか思っておらず、鼠は猫に襲われることを天災のような仕方のないこととしか捉えていなかったが、言葉が通じることが分かったことで状況が一変する。鼠は猫に対して、襲わないことを約束してほしいと言うが、猫は本能だから難しいと説明。すると鼠は猫の代わりに猫ができないことをするので襲わないで欲しいと言いだし、それも難しいというと最後には、決まった数の鼠を猫に捧げるので他の鼠は襲わないで欲しいと言い出す。こういったやり取りが、人間同士のやり取りの間に挟まれるのだが、実はこの猫と鼠のやり取りが、人間同士のやり取りとのリンクしており、話を聞いている主人公や読者は猫と鼠のやり取りを通して人間同士のやり取りを類推していくこととなる。

 

 

②自分の頭で考えて行動しろ

 猫が住んでいた国では、10年前まで毎年数人が「クーパーの討伐」に向かっていた。クーパーとは杉の怪物で、毎年一本の杉が怪物となり、放置しておくと街を襲うため、討伐対を送り込んでいるとのことだ。クーパーを討伐した戦士達は、クーパーの返り血のような物を浴びることで透明になってしまい、街には帰ってこない。というのがこの国の国民全てが信じている話で、この国の王が国民にそう説明していた。

 しかしその実は、この猫の住んでいた国は100年前に既に敵国に負けており、毎年奴隷として数人を献上していたというのが真相だ。国王はそれを隠し、国の外にクーパーという敵を作り、それから国民を守ってやっているということで威厳を守っていたのである。しかし10年前に「ある事情」からクーパー討伐は終了し、困った国王は新たな敵として敵国と戦争を開始したと言い出したのである。

 国民は国王の言うことを信じ切っており、自分の頭で考えて行動することを放棄しまっていた。しかしそこに敵国の占領軍がやってくる。この占領軍の正体こそがこの小説最大のどんでん返しなのであるが、その正体を明かすネタ明かしの場面でも、登場人物は繰り返し「自分の頭で考えて判断しろ」と言う。松浦正人氏のあとがきにもあるが、これは今後この国の将来を考えての「命がけの啓蒙」であり、同時に読者に対しても先入観を捨て、自分の頭で考えることの重要性を説いているようにも思われる。

 

 

 

 

 

~最後に~

 本作は、猫目線で物語が語られることや最後のどんでん返しに目が行きがちで、もちろんそれらも本作の魅力の一つではあるが、個人的にはそれ以上に、自分の頭で考えることの重要性を分かりやすく面白く、伊坂氏が解いているように感じた。物語、ミステリー、啓蒙書など様々な側面を持った作品だと思うので、ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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