おもしろいゲーム・推理小説紹介

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推理小説、マンガ、ゲームなどの解説・感想

◯初めての方にお勧めの記事!

恩田陸著「麦の海に沈む果実」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

最近いろいろと忙しくて読書から離れていたが、久しぶりに読んだのでご紹介したいと思う。本日ご紹介するのは恩田陸著「麦の海に沈む果実」である。本作は幻想的なタイトルに違わぬ不思議な雰囲気を持った作品であった。その魅力について語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

陸の孤島にある特殊な学校に入れられた主人公。特殊な環境に戸惑いながらも慣れていこうとするが、彼女の周りで様々な事件が立て続けに起こる。徐々に心が衰弱していく彼女。そんな彼女に隠された真相とは・・。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

陸の孤島での事件

 本作は、陸の孤島のような場所にある特殊な学校が舞台となる。ここに入っているのは、英才教育を目的とした名家やお金持ちの子どもたちもいるが、多くは家庭の事情により半ば無理矢理ここに閉じ込められた子どもたちだ。入学の際に私物の持ち込みは厳しく制限されており、外との連絡は手紙のみという徹底ぶり。しかもこの学校では年に何人も生徒がいなくなっており、建前上は家の事情により出て行ったなどとされているが、疑う生徒は少なくない。そんな特殊で闇を抱えていそうな学校で死人が立て続けに出ることで、主人公をはじめとした生徒達はどんどん不安定になっていく。そして事件はどんどんエスカレートしていき、読者も不安を抱えながら読み進んでいくこととなる。

 

 

②個性的な登場人物達

 本作の登場人物達は、前述のように様々な背景を持っている。学校内では相手の家庭事情などを詮索してはならないという暗黙の了解があるが、それでも様々な噂が流れている。主人公と関わる生徒だけでも、とても頭の良い子や運動が得意な子、芝居が得意な子など様々な才能を持った人がいたり、だれだれの私生児であるとの噂が流れていたりなど様々だ。また、そんな生徒達よりももっと個性的なのが校長だ。校長は時には女性、そして時には男性の格好をして生徒達の前に現れ、そのどちらもが生徒達を魅了しファンクラブのような物ができるほど魅力的なのである。そんな個性溢れる登場人物達の中で、主人公のことは終盤までほとんど語られない。そして終盤、主人公は少し前から記憶喪失であるとのことが明かされる。この主人公の正体こそがこの小説のキーとなるところで、最後に明かされたその正体によって物語が完結するのである。

 

 

 

 

 

~最後に~

 本作は、ミステリーとはちょっと異なるが、謎や不安に満ちたドキドキを味わえる作品だ。冒頭はやや文章が読みづらいが、その後は読みやすくなるため、最初で諦めずに読み進んでいただきたい。

 

 

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神永学著「青の呪い 心霊探偵八雲」を語る(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは神永学著「青の呪い 心霊探偵八雲」である。本作は心霊探偵八雲シリーズの一作で、講談社文庫50周年記念特別描き下ろし作品となっている。心霊探偵八雲シリーズは初見である。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

主人公・琢海はある日「君」と偶然の再開を果たし、昔の記憶を思い出した。

琢海は幼い頃に事故で両親を亡くし、妹と共に叔母さんの元で暮らしていた。高校に入学し、妹のためにバイトに励んでいた彼だが、美術室にある絵に関する噂話や斉藤八雲や両親を亡くし悲しみに暮れていた自分を助けてくれた女性との再会との出会い、そして学校での殺人事件発生により、生涯忘れることのない事件に巻き込まれていく。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①特殊設定ミステリー

 帯にも書かれている通り、本作は高校での青春時代の思い出と、特殊設定下でのミステリーの話である。特殊設定とは斉藤八雲の「霊が視える力」と琢海の「サウンドカラー共感覚」のことで、主には後者が大きく関わってくる。サウンドカラー共感覚とは他人の言葉が色がついて見えるもので、特殊設定ではあるが現実に存在する。琢海は人によって色が違うだけでなく、その人の感情によって色の形が変わったり、嘘を付くと色が黒になったりなど、他人の発する声から様々な情報を得ることができた。そのため、言葉の色から相手の感情を推し量ってしまう癖があり、本作中で発生する事件にも大きく関与してくる。相手の嘘がわかるため、琢海はある人を犯人だと疑うようになり、読者もそのように思い込まされていく。しかしながらこれこそが著者の罠であり、スリードとなっているのである。割と露骨にミスリードしてくるため、恐らく多くの読者はミスリードされている事には気付くのではないかと感じた。また、事件の真相も丁寧にヒントを散りばめていたため、それほど驚きはなかったが、そのプロットの組み方は流石にうまいと感じた。

 本文中でも述べられている通り、サウンドカラー共感覚により、他人の感情がある程度見えてしまうが故にそれに頼ってしまったことが琢海の過ちであり、思い違いによる暴走へとつながってしまった。このことは琢海だけでなく、一つの側面だけで物事を判断してはならないとの、私達に対する教訓にもなっている。

 

 

 

②青春ミステリー

 本作のもう一つの側面である「青春」も事件に大きく関与してくる。琢海を始めとする登場人物たちの恋心や嫉妬心が物語の行方を大きく左右していくのである。また、プロローグで「君」との再会を果たしたが声をかけられず恋を諦めたかのような描写があり、その次の場面で初恋の人との思い出が語られるため、てっきり「君」とはこの初恋の相手で、思い出の中の恋は実らなかったのだと思い込まされてしまった。しかしプロローグで語られるように、実は「君」とは斉藤八雲のことであり、初恋の相手・真希は恋人として隣りにいるというオチになっている。本章の中では暗く辛い悲しい物語が多かっただけに、彼らが現在幸せに過ごしている姿は読者にとって救いとなり、心地良く読み終わらせてくれた。

 

 

 

 

 

~最後に~

 本作は、ミステリーの難易度としては優しめであるが、青春の物語を含めた全体としては読みやすく完成度の高い作品だと感じた。私のように斉藤八雲シリーズを知らない方でも十分楽しめるので、ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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早坂吝著「探偵AIのリアル・ディープラーニング」

~はじめに~

本日ご紹介するのは、早坂吝著「探偵AIのリアル・ディープラーニング」である。タイトルから興味をそそられる本作は探偵AIシリーズの第1作である。本日は本作の魅力について語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

 父が2つのAIを残して亡くなった。片方は探偵として謎を解くAI・相以。そしてもう一方は犯人として犯罪を考えるAI・以相である。双子のAIは犯人AIが問題を出し、探偵AIがそれを解くという学習を無数に行うことで能力を高め合っていた。このAIが犯罪者集団に奪われ悪用されてしまう。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①周りを巻き込んだ姉妹バトル

 本作では、犯人AI・以相が犯罪者集団に奪われてしまうのだが、そこで以相は積極的に犯罪を計画し、犯罪者達に助言する。それは探偵AIである相以を超えたいが為である。互いに謎を出して解き、共に成長してきた2人だったが、徐々に成長し、相手を超えたいと考えるようになったのだ。AIでありながらも人間味のある彼女らのバトルは、周りをかなり巻き込んだはた迷惑な物ではあるが、見ていて楽しくなる物である。

 

 

②想像しやすい設定

 本作ではAIが活躍していくが、内容的には極近未来的(もしくは既に可能となっているかもしれないが)であり、現代の私たちにとっては物語に入っていき易い内容となっている。また、登場するAIもはじめから完璧なわけではなく、はじめはポンコツだが徐々に機械学習を積み、成長していく様は、あたかも人間の成長を見ているようであたたかいめで見ていたくなる。また、内容がAIについての作品なだけに、「シンギュラリティ」や「フレーム問題」、「シンボルグラウディング問題」など、興味をそそるワード・説明が多く出てくるため、好きな人はとても楽しく読めるだろう。逆によく知らなかった人にも分かるように分かりやすく説明しているため、AIについて知りたい人にもお勧めかもしれない。

 

 

 

 

~最後に~

 本作は特殊設定・SF物に近いが、内容が現代に近いためとても分かりやすい。一方でAIが登場することで推理小説において大事な非現実感をよりいっそう高めており、バランスの良い作品だと思う。読みやすいのでぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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伊坂幸太郎著「フーガはユーガ」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは、伊坂幸太郎著「フーガはユーガ」である。ミステリの枠からは少し飛び出てしまうかもしれないが、2019年本屋大賞にもノミネートされ話題を呼んだ本作についての感想を本日は述べていきたいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

 フーガとユーガ。ある双子の物語。幼い頃、父親から日々暴力を受けていたことと毎年誕生日に起きる「アレ」を除いては、よくいるそっくりな一卵性の双子。そんな彼らが子どもから大人になり、現在に至る物語。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①特殊設定

 この作品を語る上で外すことができないのが風我と優我の間で毎年誕生日に起こる「アレ」である。「アレ」とはすなわち、10時10分から2時間おきに二人が入れ替わることである。入れ替わるとは文字通り、風我と優我が身体ごと物理的に入れ替わるのである。そしてもちろんこの特殊設定が物語りの展開と結末に大きく影響してくる。こうした科学的にあり得ないことを前提に話が進んでいく様は、西澤保彦氏などのSF推理小説を思わせる。超過額的現象ではあるものの、そこにはちゃんとした法則・決まり事があり、それに従って物語は進み、読者は推測しながら読んでいくのである。昨今ではよく見かけるようになった特殊設定物ではあるが、それは伊坂氏の得意とするジャンルであり、本作もこの特殊設定を存分に活かした展開となっている。

 

 

②張り巡らされた嘘・伏線

 本作は終盤まで、双子の片方が記者に語るという形で幼少期から大学生までの物語が語られる。そしてその話の中には、作中で言明されている通り、意図的な嘘が混ぜ込まれており、読者はなんとなくその嘘とは何なのかと頭の片隅で考えながら読んでいくこととなる。終盤までは、特殊な能力があること以外は波瀾万丈ながらもありえる双子の過去の物語を読んでいる感じであるが、終盤それが一変する。これまで語られていた何の繋がりもないと思われていた内容が一つに収束し、現在の状況に繋がっていくのである。こういった終盤でたたみかける展開は道尾秀介氏の作品に似ていると感じた。伏線の張り方が巧妙で、一部は気付いても全ては気付けないであろうから、終盤それらが一気に回収されていく様は爽快である。改めて伊坂氏の文章・構成に魅了される作品となっている。

 

 

③本当の物語

  伊坂氏曰く、この作品は「現実離れした兄弟の、本当の物語」を書いたとのこと。もちろん前述の「アレ」は現実では起こりえない超常現象であるのに、一体何が「本当の物語」なのだろう。あくまで個人的な見解だが、本作の内容は、「アレ」に関する事象以外は、家庭内暴力も、学校でのいじめも、裁かれない犯罪者も、残念ながら本当に存在しており、ただそれらを書くだけではなく、一種の希望・救いとして双子の「アレ」が存在しているように感じた。実際文庫版の後書きで伊坂氏も類似した趣旨の?ことを語られているが、実際に起こっている社会の問題を提起しながら、物語の中だからこそ、救いを提供できるのであり、物語の良さが存分に出た作品だと思う。

 

 

 

 

~最後に~

 本作はミステリとは若干ジャンルが異なるが、ミステリファンでも十分楽しめる内容だと感じた。もちろんミステリファン以外でも読みやすく、どんどん先を読みたくなるような展開となっているため、既に読まれた方も多いかもしれないが、まだの方はぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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北山猛邦著「『アリス・ミラー城』殺人事件」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

 本日ご紹介する作品は、北山猛邦著「『アリス・ミラー城』殺人事件」である。古典的な展開ながら、読者の間で物議を醸している本作について、個人的な感想を交えてご紹介したいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい

 

 

 

 

 

 

 

                    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~あらすじ~

ある孤島の城に集められた探偵達。はじめは談笑していた彼らであったが翌朝ヒトリノしたいが見つかったのをきっかけに、ひとりまた一人と殺されていき、疑心暗鬼へと陥っていく。孤島というクローズドサークルで起きた連続殺人の意外な犯人とは?

 



~面白いポイント~

①王道の展開

 この作品の舞台は孤島。そして集められたのは探偵達。鏡の国のアリスをモチーフとした城。そこに置かれた11個のチェスの駒が一つずつ減り、一人ずつ殺されていく展開。どれもがミステリーの王道を行く古典的な作品と言える。最近は変わり種のミステリーも多くなってきたが、それでも王道的な展開が嫌いな人は少ないと思うし、読者が状況を理解しやすいという点でも読み進めやすい作品と言える。そして王道的展開だけに重要なのはラストの真相であり、それによってこの作品のアイデンティティが確立されるのであるが、次項で述べる通り本作のラストは色んな意味で衝撃的で話題となるものとなっており、全体としてのバランスのよさを感じた。

 

②物議を醸す真相

 さて、問題の真相であるが、簡潔に言うと集められた人々の数が10人だと思わせておいて実は11人であり、いないように錯覚させられていた一人が犯人であるという、王道的な叙述トリックである。ではなぜこれが物議を醸しているのかというと、この犯人は実際に他の登場人物達と同じ場にいて会話しているにもかかわらず、他の人が不自然に犯人に触れなかったりいないように振る舞っているため、一部の人はフェアではないと感じてしまうためだろう。個人的には、ミステリーにフェアな記述は全く必要ないとは言わないが、物語として成立して面白ければそれで良いと考えているためそれほど気にならなかった。むしろ真相に辿り着いたときに一瞬理解ができなかったことが印象的で、それほど巧妙に隠されていたと言える。また、確かに犯人に対してやや不自然な扱いはあるものの、読者が真相に辿り着きうるヒントは各所に散りばめられており、真相を知った後に読み返すとやられたと思うので、ある程度のフェアさはあるのではないだろうか。

 

 

~最後に~

 本作は、真相が意外すぎておそらく一度読み終わってもよく分からないと感じてしまうだろうし、人によっては納得できないかもしれない。しかしながら、再度念入りに読んでみればフェアに拘りすぎない方であれば十分楽しめる作品であると思う。人によって感じ方は異なるの思うので、気になる方はぜひ読んでみていただきたい。

 

 

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島田荘司著「Pの密室」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

 本日ご紹介する作品は、島田荘司著「Pの密室」である。本作は鈴蘭事件とPの密室の2本立てとなっており、いずれも名探偵・御手洗の幼少期(幼稚園~小学校低学年)の頃の話である。これまでもいくつか御手洗潔シリーズをご紹介してきたが、本作は御手洗の原点とも言える事件を取り扱っている。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい

 

 

 

 

 

 

 

                    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~面白いポイント~

①鈴蘭事件

 こちらの事件は、御手洗が女性嫌いになった原因とも言われている事件だ。花瓶から鈴蘭の花が消え、ある男性が交通事故に遭った。様々な状況から幼稚園児の御手洗は鈴蘭に含まれる毒を使った事件だと見抜き、犯人を追い詰めるのである。某マンガの主人公が頭脳は高校生であるのに対し、御手洗は頭脳が幼稚園児の時から名探偵だったのである。この事件の動機が男女関係のもつれであり、犯人は愛人に唆されて犯行に及んだことや、さらにその愛人が犯人を見捨てたこと、更にはこの愛人の更に裏で御手洗の伯母に当たる女性が糸を引いていた可能性にも御手洗は気付いており、女性という生き物に嫌悪感すら抱くのであった。このことが大人になった御手洗が女性を苦手とする原因の1つになったのではないかと言われているそう。

 

②Pの密室

 ある密室で男性が殺害された状態で見つかった。家は窓にも全て鍵が掛れた密室であったが、御手洗は家の間取りや直角三角形の各辺に正方形の部屋が付いている形状、床一面に殺害された男性がコンクールに出されたポスターを評価するためにポスターを隙間なく敷き詰めていたことやその上に残った血痕や赤い絵の具などから犯人の行動を推理するのであった。小学生でありながら当時一般的でなかったルミノール反応による血痕の検出を行ったり、表題にもある数学の教科書でおなじみのPの定理から犯人を追い詰めたりと、鈴蘭事件に引き続き子どもとは思えぬ名探偵ぶりを披露していく。しかしながら、子どもの話とはじめは誰も相手にしてくれず、御手洗は歯がゆい思いをしており、大人になった御手洗が警察や常識人を嫌う1つの理由になっているのではないだろうか。

 

 

~最後に~

 本作は、トリックとしてはそこそこの完成度であるが、御手洗潔シリーズファンとしては御手洗の幼少期を垣間見える貴重な作品となっている。シリーズファンであればぜひ一度読んでみていただきたい。また、比較的短い作品なのでちょっとした読み物としてはシリーズファンでなくとも楽しめるのではないだろうか。

 

 

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島田荘司著「セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

 本日ご紹介する作品は、島田荘司著「セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴」である。タイトルとカバー絵のかっこよさから買った作品ではあったが、内容も面白かったためご紹介したいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい

 

 

 

 

 

 

 

                    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~あらすじ~

名探偵・御手洗の下を訪れた老婦人。彼女が御手洗に話した内容は突拍子もない内容で冷やかしかと思われたが、御手洗は興味を示し依頼を受けることとなった。捜査を続けていくと様々な奇妙な出来事が起こっていき石岡は困惑するが、御手洗は何かつかんでいる様子。例のごとく中々真相を教えてくれない御手洗にやきもきしながらも捜査を続けていった先に待っていた真相とは・・・。

 

 

 

~面白いポイント~

①心温まるミステリー

 本作はあるお宝を巡って様々な登場人物が右往左往する物語であるが、その中で貧困にあえぐ少女が登場する。彼女がこれまでうちにサンタが来たことはないと言うのを聞いた御手洗は「貧乏人を差別するとはな、弱い物の味方セント・ニコラスも、なんて堕落したんだい!」と憤った。実はこの時御手洗はお宝の場所を推理で知っていたが、そのお宝を巡って人々が争うならそんな物ない方が良いと考えていた。しかし少女の話を聞き、一度くらい奇跡を味わわせてやりたいと思うようになり、亡き祖母からの手紙を装い少女にお宝を発見させるのであった。お宝を巡って大人達が醜い争いを繰り広げる中、少女の純真な心に対する御手洗の思いやりを垣間見ることができ、最後にはほっこりすることができる作品である。

 

②敵を欺くにはまず味方から

 本作では途中、偽の真相が御手洗の口から語られる。これは、御手洗がある程度真相を見抜いた上で犯人を誘導するために行ったことだが、石岡君は最後の方までその事が真実だと信じ切っていた。石岡君だけでなく読者の多くも御手洗が言うのであればそうなのか、と釈然としないながらも信じて読んでいった方も多いだろう。本当の真相を聞くと全ての出来事が噛み合い、これまで釈然としなかった部分がスッキリとするので嘘の真相に無理があったのは分かるのだが、普通に読んでいるとそんなものかと納得してしまうのである。前述の通り当初御手洗はこの嘘の真相でこの事件に幕を引くことでお宝が誰の手にも渡らないようにしようと考えていたためこのように嘘の真相を語ったのであるが、最後には全ての真相を石岡君達に明らかにし、石岡君は驚きの連続となるのであった。

 

 

~最後に~

 本作は、御手洗潔シリーズの中でも御手洗の子どもに対する優しさが垣間見られる貴重な作品となっている。クリスマスが近い今この時期にぜひ読んでいただきたい一作である。

 

 

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我孫子武丸著「殺戮にいたる病」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

 本日ご紹介する作品は、我孫子武丸著「殺戮にいたる病」である。本作はホラー小説に分類されることもあるが、推理小説としても人気が高い。30年近く前に発表された作品でありながら今なお語り次がれている理由について語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい

 

 

 

 

 

 

 

                    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~あらすじ~

繁華街で発生した連続猟奇殺人。犯人は蒲生稔。彼はなぜ殺人に至ったのか。彼が逮捕される前に遡って物語をたどっていくと、蒲生稔の驚くべき真相が明らかとなる。

 

 

 

~面白いポイント~

①終始展開されるホラー描写

 本作は最初から最後まで、生々しく恐ろしい描写が多くあり、物語全体を重たい雰囲気にしている。そのあまりにも生々しい描写に人によっては気持ち悪いと思うかもしれないが、そこまで描写できる文章力がすごい。この重たい雰囲気があるからこそ本作のストーリーが引き立ち、読む者を引き込むのである。

 

②最後のどんでん返し

 最初に述べたとおり、本作の犯人は蒲生稔である。ではいったい何を推理する推理小説なのかというと、やはり「犯人は誰なのか」なのである。一見矛盾しているように聞こえるかもしれないが読んでいただくと分かるように、蒲生稔というのが誰なのかというところを冒頭から終始スリードするような文章となっており、最後の最後に明かされる衝撃の真相に驚くことだろう。タネが分かってから読み返すと所々に真相を垣間見させる記述がたくさんあり、著者が巧みに表現や言葉尻を変えて、スリードをしつつもヒントを出しているのが分かる。こうした緻密な構成により騙されたと分かってもスッキリと読み終えることができるのがこの作品の特徴。

犯人が冒頭で明らかになる作品と言えば、以前紹介した麻耶雄嵩著「さよなら神様」が有名であるが、本作はそれとはまた違った方法で読者を驚かせてくれるので、さよなら神様を読んで気に入られた方はぜひ読んでみていただきたい。

 

 

~最後に~

 我孫子氏は数々の推理小説家達を生んだ京都大学推理小説研究会出身で、例に漏れず高い構成力と描写力が魅力だと思う。その中でも代表作と言われる本作は特に完成度が高いので、ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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島田荘司著「御手洗潔の挨拶」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

 本日ご紹介する作品は、島田荘司著「御手洗潔の挨拶」である。本作はタイトルの通り御手洗潔シリーズの一作で、4つの短編からなる短編集となっている。御手洗潔シリーズで短編集は多くあるが、本作に収録の短編は特に面白かったのでご紹介したいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい

 

 

 

 

 

 

 

                    

 

 

 

 

 

 

 

 

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~面白いポイント~

①数字錠

 ある会社の社長が殺されたが、ふたつある出入り口の内、片方は鍵が掛かっており、もう一方にも3桁の数字を合わせなければ開かない数字錠が掛かった密室で殺害されていた。社員に動機があり犯人で間違いなさそうだが、どうやって密室殺人が行われたのかという作品。結局犯人はアリバイがあるかと思われた社員がアリバイトリックを用いて殺害したという物だったのだが、この作品で面白いのは名探偵・御手洗が犯人を捕まえるために、3桁の数字錠を開けるのにものすごく時間が掛かるというをついたことである。実際には数十分あれば開けられてしまうそうだが、御手洗はこれはもっと何日もかかるという嘘をつくことで、誤認逮捕を防いだのであった。数字錠が御手洗の手によって実際よりも強固にされてしまったことで、結果的には真犯人を特定することができるという、真実のみを話すことが名探偵ではないと教えてくれる作品である。

 

 

②疾走する死者

 ある夜、マンションの一室から姿を消した男性が、電車に轢かれた。しかしその男性が轢かれた場所はマンションから全力疾走しても、男が部屋から出て行ってから轢かれるまでの時間では到達できない距離で、しかも絞殺されていた。この不可解の死の真相は?という作品。実は男性はマンションで既に絞殺されており、ある「偶然」により死体が線路まで吹っ飛び電車に轢かれたという物だったのだが、この「偶然」があまりに突拍子がなく全く予想できなかった。良くこんなこと思いつくなぁと感心させられた作品。

 

 

紫電改研究保存会

 ある男に半ば脅され、封筒の宛名書きを手伝わされたが、終わるとすぐに解放された。その後すぐ、「ピサの斜塔救済委員会」なるところから寄付の御礼・領収書の手紙が届いた。そんなこと身に覚えがなく、特に被害があるわけでもなく、何のことか分からず困惑していた。この話を聞いた御手洗は、わかりきったことだ。あなたはペテンに掛けられだまし取られたのだ、という。果たしてこの男性は何をだまし取られたのかという作品。真相は、宛名書きをしている間に犯人が男の部屋から「ある物」を盗みだし、その御礼(皮肉)に領収書を送ったという物。この「ある物」が現金や貴重品ではなかったため事件は分かりにくくなったのだが、果たして何を盗んだのかは実際に読んでみていただきたい。

 

 

ギリシャの犬

 相談に来た女性からたこ焼きの屋台が盗まれたとの話を聞いた御手洗。最初は興味がなく警察に相談してくれてと突き放していたが、女性の盲導犬が屋台を盗まれる際に毒殺されたと聞き、一転依頼を受け入れることとした。また現場には、意味不明な記号が書かれた暗号文が残されていた。さらにはその近辺で子どもが誘拐される事件まで発生。一連の出来事の関連性とは?真相は、誘拐犯があることに使うための箱とちょうど同じ大きさの屋台を見つけて利用したという物。子どもの誘拐という一刻を争う状況に対しても御手洗がスマートに解決していく様子が爽快。

 

 

 

~最後に~

 本作は御手洗の比較的初期の頃の事件を集めた短編集となっており、ひとつひとつは大きな事件ではないが、話の表面しか理解していない石岡君や私たち読者に対して、御手洗が同じ内容から何倍もの情報を得ていることに感心させられるものが多い。各作品も適度な長さで読みやすくなっているのでぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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綾辻行人著「暗黒館の殺人」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは、綾辻行人著「暗黒館の殺人」である。本作は館シリーズの第7作目にしてシリーズ史上最長の作品である。本日は文庫本4巻にわたる大長編の魅力をご紹介していきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

峠の先にそびえ立つ暗黒の館。館に招かれた学生・中也はそこで様々な奇妙な出来事に遭遇し、ついには殺人事件に巻き込まれてしまう。館に住む人々はおどろおどろしい人々ばかりで中也は数々の恐ろしい出来事に出会う。果たして殺人事件の真相は?この館に隠された秘密とは?

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①ホラー要素全開

 本作は館シリーズの作品であり、「十角館の殺人」のように本格ミステリー的展開かと思いきや、ホラー要素全開である。登場人物達は皆特殊な雰囲気を持っており、「ダリアの宴」なる怪しげな会まで行われている。こういったホラー要素が全編にわたって表現されており、これまでの館シリーズとは一線を画する。しかしもちろんこれらは読者を怖がらせるためだけのものではなく、様々な伏線となり、最後のどんでん返しへと繋がっているのである。ホラー要素をただの超常現象として捉えず、あくまでミステリーという事を念頭に置いて読んでみていただきたい。

 

②大長編

 冒頭にも書いたとおり本作はシリーズ最長編の作品となっている。文庫本4巻にわたるこの作品は手を出すのが少しためらわれる方もいらっしゃるかもしれないが、ぜひ勇気を出して読み始めていただきたい。長編の中では様々な不可解な現象が発生し、謎が謎を呼んでいく展開であるが、それらは全て綾辻氏によって考え抜かれた伏線となっており、終盤で真相が明らかになっていく所は、そこまでが長かっただけに大きな爽快感を感じさせてくれる。無駄に長いだけでない考え抜かれた文章を隅々まで読み、綾辻ワールドを堪能していただきたい。

 

 

③シリーズファンの意表を突く

 本作は館シリーズファンだけがアッと言わされる大どんでん返しが用意されている。これまでの館シリーズを知っていればいるほどその衝撃は大きく、ぜひシリーズファンには読んでいただきたい一作である。また、その真相を知っていることで、他の館シリーズ作品もより楽しんでいただけるかもしれない。シリーズファンでない方も1作でも良いので他の館シリーズを読んでから本作を読むとより楽しめるかもしれない。

 

 

 

 

~最後に~

本作は、これまでの館シリーズとは様々な意味で一線を画する作品である。かなり読むのに時間と集中力が必要だが、その甲斐はあると思うのでぜひ読んでみていただきたい。

 

 

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50記事記念:おすすめ推理小説・ゲームベスト5/やって来た感想

~はじめに~

本日は、記念すべき50記事目という事で、これまでご紹介してきた推理小説・ゲームの中から現時点でのベスト5のご紹介と、ここまでブログをやって来た感想を述べようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

 

 

 

~おすすめ推理小説ベスト5~

 

西澤保彦著「人格転移の殺人」

 西澤氏の作品で初めて読んだ作品。一般的な本格ミステリばかり読んでいた私が初めてSF推理小説に出会い、推理小説の概念を覆されたため強く印象に残っている。この作品を読んで以降、他のSF推理小説や特殊設定ものを好んで読むようになった。特殊な設定を設けるだけでなく、その設定ならではの展開と理解しやすいラストが秀逸。

 

綾辻行人著「黒猫館の殺人

 綾辻氏の「十角館の殺人」から推理小説を読み始め、館シリーズは全て読んできた私が最も衝撃を受けた作品。館シリーズ恒例のトリックなどを念頭に置いて読んでいたにもかかわらず、まんまと騙されラストで驚愕し最初から読み直した。これを読んで以降どんでん返しものが好きになった。細部までこだわり抜いた文章と読者に対してあくまでフェアな記述がすばらしい。

 

相沢沙呼著「medium 霊媒探偵城塚翡翠

 最近読んで一番感銘を受けた作品。特殊設定ものが好きで色々読んできたが、本作が最も特殊設定をうまく生かしていると感じた。終盤の怒濤の展開は仰天必須で、世界がひっくり返る。解法が複数ある点なども含めて推理小説の進化を感じさせてくれた作品。

島田荘司「ロシア幽霊軍艦事件」

 御手洗潔シリーズの中で最も感傷的な気分にさせてくれた作品。世界を舞台としたスケール感の大きさや歴史に挑戦する壮大さに感銘を受けた。推理に無駄がなく、美しく解かれていく歴史上の謎はあたかも事実のようで、歴史小説を読んでいるような気分にもさせてくれる。

 

歌野晶午「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」

 ゲーム感覚で殺人を推理していく魅力を教えてくれた作品。一人が犯した殺人を複数人でゲーム感覚で推理していく内容で、みんなで答えを出していく楽しみのような感覚を味わった。また、ゲームだからこそ成立するようなトリックなどもあり、設定をうまく生かした作品。実際こんなことが行われたらと思うとゾッとするが、娯楽本としては非常に楽しめた。

 

 

 

~おすすめゲームベスト5~

①「スターオーシャン3 Till the End of Time ディレクターズカット

 最も長時間プレイしてなお飽きない作品。スターオーシャンシリーズ中で最も賛否が分かれるストーリーとなっているが、どんでん返し系の推理小説やSFが好きな私にとっては非常に好みな展開。また、やりこみ要素やクリア後のエクストラダンジョン、細部の作り込みが半端ではなく、リエーターの熱意(遊び心?)を強く感じる作品。

 

②「 エイジオブエンパイア

 PCゲームとして最もはまった作品。実際の歴史の登場した文明や兵器を使って敵を攻撃することができ、勉強になる。また、どのように敵を攻略するのかはプレイヤー次第で、非常に自由度が高く、何度やっても飽きの来ない作品となっている。今や数多くあるリアルタイムストラテジーゲームの根幹を作った作品である。

 

 

③「ヴァルキリープロファイル

 フィールドアクションの魅力を知った作品。様々なRPGをやって来て戦闘やストーリーで魅力的な作品も多いが、本作はそれに加えて難易度の高い多種多様なフィールドアクションが魅力の一つ。うまくできないとイライラすることもあるが、意地でもクリアしたくなる魅力がある。ゲームがプレイヤーに優しくなってきた昨今では見られない難易度を味わえる作品。

 

④「エンドオブエタニティ

 シリアスさとコメディ要素を併せ持つ作品。メインストーリーはかなりシリアスな内容にもかかわらず、それを感じさせないほどコメディ要素が各所にちりばめられており、最初から最後まで楽しくプレイできる。戦闘も他では見られない爽快なアクションを楽しむことができ、バランスの良い作品となっている。

 

⑤「NieR Replicant ver.1.22474487139...

 周回プレイを飽きずに楽しめる作品。一周クリアしただけではもやもやした感じが残り伏線も回収されないが、何度も周回プレイをすることで隠された真実が明らかになっていく。1回クリアしたらそれで終了というゲームも多い中、何度もプレイヤーを楽しませてくれる。コンシューマーゲームにはこういったプレイヤーを何度でも長時間楽しませるような工夫が必要だと感じさせてくれる。

 

上記ランキングは、あくまで現時点の物であり、今後これらを超える感動を与えてくれる推理小説・ゲームに出会えることを切に願っている。

 

 

 

~ここまでブログをやって来た感想~

 当初は、これまで読んできた小説やプレイしてきたゲームを忘れないための備忘録として始めたブログだったが、ありがたいことに徐々に読んでくれる方も増えて、もっとうまく書きたいと思うようになった。ページ内のレイアウトやリンクも他の方を参考に少しずつ改良を加え、現在の形となっているが、今後も更に改良を加えていきたい。

 更新頻度は他の方に比べるとかなり低いが、続けることが大事だと思っているので無理のないペースで今後も続けていきたい。とりあえず次は100記事達成を目指し、ゆっくり地道に頑張っていく。

 他の方の記事を読むと自分がこれまで出会ってこなかった作品を知るきっかけになるため、このブログも誰かにとってそういった存在になれるよう努力していきたい。 

アンソロジー「神様の罠」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは、アンソロジー神様の罠」である。本作は人気ミステリ作家6人による短編集で、どれも短編にもかかわらず惹かれるストーリーと読者をアッと言わせる「」が仕組まれている。本日は各短編の概略と魅力を語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ・おもしろいポイント~

 

①夫の余命(乾くるみ著)

 ある病院の屋上。病により夫と死に別れることを宣告され嘆く妻。ついには屋上から身を投げた彼女の脳裏に、これまでの出来事が走馬燈になって蘇る。

 物語は、現在から過去へと遡っていく。いかにして2人の幸せな生活は奪われていったか。夫がどのように弱っていったのか。それらは、余命宣告をされた夫を妻側から見た視点で描かれる。と思って読んでいった方はまんまと著者の仕掛けたにはまったことになる。最後に明かされる夫の余命に、読者はきっと最初から読み返したくなることであろう。

 

②崖の下(米澤穂信著)

 警察に入った通報。それはスキー場のロッジからで、4人の客が行方不明だという。捜索の結果4人中2人が崖の下で見つかった。ただしその内1人は他殺体で。

 被害者は刺殺されていた。しかし周囲をどんなに探索しても人を刺殺できるような凶器が見つからない。崖の下に他の二人が降りた様子はない。また、救助された一人は被害者を殺害する動機を持っていたことも明らかになる。しかし凶器が見つからない。犯人は何を凶器に使い、どこへやったのか。あらゆる可能性を考えた先にある意外な凶器をあなたも推理していただきたい。警察の司法解剖結果や捜査結果をよく読めばきっと一つの結論に辿り着くはず。

 

 

③投了図(芦沢央著)

 ある街の古書店。この街で将棋の棋将戦第5局が行われていた。コロナ禍にもかかわらず多くの関係者が待ちに訪れる。会場のホテルには、多くの人が来ることに反対する張り紙が貼られる嫌がらせが数日前に行われていた。古書店を営む店主の妻はこの嫌がらせの犯人は夫ではないかと疑い始める。

 古書店の店主は昔は将棋が大好きであったが、最近はめっきり興味をなくし、今回の棋将戦にも興味を示さなかった。夫が将棋に興味をなくしたのは父親が亡くなった頃からだった。一体何が夫を変えてしまったのか、このコロナ禍ならではの感情の変化を感じていただきたい。

 

 

④孤独な容疑者(大山誠一郎著)

 ある最愛の人を亡くした男。ご近所付き合いもよい彼だが、実は誰にも知られてはいけない秘密があった。過去に人を殺していたのだ。

 同僚に金を借りていた彼だったが、実はその同僚は何人もの同僚に金を少しずつ貸して一気に返済を求めることで同僚を陥れようとしていたのだ。金を返すために同僚の家を訪れた彼だったが、彼が好きな人にこのことをバラすと言われカッとなって同僚を殺害してしまう。被害者に別の同僚の名前を書かせる偽装工作をして逃走した彼だったが、後になって長身の同僚が使う必要もない椅子をキッチンのシンク前に置いていたことが気に掛かった。その時は確認しなかったが、実はシンクの上には借金の借用書などがしまわれており、被害者がそれを取ろうと椅子を持って来たのだった。通常なら長身の被害者は椅子を使う必要はないが、実は彼は直前に腕をケガしており、腕が上がらなかったのだ。このことから、彼が直前にケガしたことを知らない者が犯人だと搾り込められ、容疑者は2人に絞られた。これで犯人はほぼ特定されたかに思われたが、実はこの事件には更に深い闇が眠っているのである。真相を知ったとき、読者はきっと自分が罠の中にいたことを知るだろう。

 

⑤推理研vsパズル研(有栖川有栖著)

 英都大学の推理小説研究会。彼らはある日、同大学のパズル研究会と遭遇する。同じく謎解きを楽しむ両研究会だったが、そこには相容れない違いがあるようで、火花を散らす。そしてパズル研から推理研挑戦状とも言うべき問題が突きつけられた。ナゾナゾのような不思議な設定下で、論理的に次に何が起こるかを予測するというもので、推理研のメンバーはあれやこれやと議論を交わしていくが、納得のいく解はなかなか出てこない。そこに、名探偵・江神二郎が登場し瞬く間に答えを導き出すのだが、それでは満足しない。このナゾナゾのために創られた不思議な設定が成立しうる現実的な状況を推理してストーリーを創り出そうというのだ。果たして推理研のメンバーはナゾナゾを現実のストーリーに落とし込み、パズル研をアッと言わせることができるのだろうか。

 

⑥2020年のロマンス詐欺(辻村深月著)

 大学生が会社員を暴行したというニュース。コロナ禍のストレスによるものかとも報じられる。一体彼はなぜこんなことをするに至ったのだろうか。

 大学生は2020年の春に大学に入学したばかり。しかしコロナ禍で、入学式は中止になり、期待していたような華やかな大学生活とは全く異なる現実にやりきれない気持ちでいた。バイトの面接にも落ち、仕送りも減らされて困っていた彼のもとに地元の幼馴染みからオンラインでできるバイトがあるがやらないかとのラインが入る。軽い気持ちで始めた彼だったが、実はこのバイトは、SNSでメッセージを送り、仲良くなった人に高額の商品を買わせるというロマンス詐欺の一端を担う物だった。止めようと思うも脅されて続けざるを得なくなった彼は、SNSのやり取りをする中で一人の女性と会話を続けていく。仲良くなって商品を買わせるためにメッセージのやり取りを続ける彼だったが、相手の女性が置かれている状況に同情するようになり、ついには彼女を助けたいと思うようになる。そして遂に行動に出た彼だったが、女性の元に駆け付けた彼に衝撃の事実が待っていた。このコロナ禍ならではとも言える登場人物達の心情に感情移入するとなんとも言えない気持ちになる。

 

 

 

~最後に~

 本作は、いずれも最後に「罠」ともいえる驚きが待っている短編集である。また、コロナ禍ならではとも言える物語もあり、驚きだけでなく感慨深さも与えてくれる。一つ一つの物語は短くて読みやすいので、ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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相沢沙呼著「medium 霊媒探偵城塚翡翠」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは、相沢沙呼著「medium 霊媒探偵城塚翡翠」である。本作は第20回本格ミステリ大賞をはじめ、多くの賞を獲得した作品である。最近文庫化されて拝読したので、その魅力について語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

推理小説家の香月史郎は、犯罪者の心理に対しての鋭い洞察や人物描写により警察から捜査協力を頼まれることがあった。ある日彼は、友人を介して霊媒城塚翡翠と出会う。はじめは霊媒を信じていなかった香月であったが、彼女の超常的としか思えない発言により霊の存在を信じるようになり、霊媒推理小説家の異色のコンビが結成される。翡翠の霊視と香月の論理付けにより二人はいくつもの難事件を解決していくのだが…。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①特殊設定ミステリかと思いきや

 本作は4つ事件~構成されている。霊媒翡翠と出会った香月は、翡翠が霊視した犯人や証言を現実の捜査に落とし込んで論理的に犯人を指摘していく。物語終盤までそういった感じであるため、いわゆる「特殊設定」をミステリに持ち込んだ物かと誰もが思うだろう。しかしそれこそ作者の思うつぼ。実は翡翠は霊視などできないのである。霊視が存在しないこと自体は一般的な常識からすれば何ら驚くべきことではないのだが、翡翠は3つの事件で、どう考えても霊視したとしか思えないような発言や指摘を何度も繰り返しており、香月はもちろん読者も翡翠は霊視できるという設定なのだと思い込まされていくのである。実は翡翠は奇術師であり、超優秀な探偵であるというのが真相で、霊視していたかに思われた発言は、全て翡翠の推理によるものだったのである。作中で翡翠自身も語っているが、近年特殊設定のミステリが人気を博しており(かく言う私もSFミステリなどが大好き)、今回もそのパターンかと思わせて最後にどんでん返し。ミステリの発展に終わりはないと思わせてくれる作品である。

 

②真実は一つ。しかし解法は一つではない。

 本作で起きる3つの事件に対して、まず香月が翡翠の霊視と残された状況・証拠から論理的に犯人を絞り込み、逮捕に導く。霊視によって犯人が分かった状態で、そこに辿り着く道筋を考えていくという倒叙的なやり方ではあるが、論理は明確であり、読者も納得する解法の一つが示される。しかし終盤、翡翠は実は霊視しておらず、推理によって犯人を特定していたことが明らかになり、翡翠がどのように犯人を明らかにしたかが語られる。犯人だけでなく、犯行の手口なども全て明らかにされた上で「探偵がこの時点においてどうやって犯人を特定し得たか」を読者が推理するのである。もちろん翡翠の推理も論理的であり、むしろ犯人ありきでこじつけに近かった香月の推理よりスマートな内容である。このように本作では一つの真相に対して解法が2つ示されており、読者は同じ事件で2回も推理を楽しめるという構成になっている。

 

 

③人間の心理を突く

 作中で翡翠が語っていることだが、人は何か謎や秘密を一つ知ると、なぜかそれ以上隠されていることはないと思い込んでしまう傾向があるようだ。本作でも、3つの事件で探偵役だった香月が連続殺人犯であると言うことは途中でなんとなく分かっていたが、いわゆるワトソン役とも言うべき翡翠が探偵でしかもこれまで霊視してきたことが全て推理だったとは全く思いも及ばなかった。始めに会ったとき気が強い霊媒師だった翡翠が実は世間知らずのドジなお嬢様であると知ったとき、それが計算されたものだとまでは気付かなかった。本作の終盤で語られていることだが、こうした人間の真理を突いてくるような仕掛けが本作の最大の魅力である。そしてこうした表現は、本書の解説で漆原氏が語られているように、著者自身がアマチュアマジシャンであることに由来すると思われ、他の方の作品にはない特徴と言える。

 

 

 

 

~最後に~

本作は、多くの賞を受賞した作品と言うことで手に取ってみたが、想像以上に満足感の高い作品であった。「すべてが、伏線」というキャッチコピーもあまり期待していなかったが、読み終わった今は見事と言うほか無い。ぜひ多くの方に読んでいただきたい作品である。

 

 

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森博嗣著「女王の百年密室」感想(ネタバレ注意)

~はじめに~

本日ご紹介するのは、森博嗣著「女王の百年密室」である。論理的で現実的なストーリーを好む森氏には珍しく、SF要素を多く含んだ作品である。内容は推理小説というには推理要素は少ないが、魅力的な謎にあふれた物語である。本日はその魅力について語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



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~あらすじ~

近未来。ナビの故障で道に迷ってしまった主人公。森の中で見つけた街は100年間外界から隔離されておりながら、皆が不満なく暮らしていた。主人公が謁見した女王はその街では100年間だれも死んでいないと話す。100年間誰も死なないこの街の秘密とは。この街は何のために誰が作ったのか。

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①神が創りし街

 この街では神の存在が信じられている。女王は神の声を聞き街の人に伝える役割を持っており、主人公が来ることや名前も神が教えてくれたという。但し「目にすれば、失い、口にすれば、果てる」と街の人達は信じており、神を見ることも語ることも決してしない。このことが、物語中盤で起きる殺人事件の真相を隠し、物語全体を不確かなものにしている。主人公はあくまで神の存在は信じておらず、殺人事件の犯人を捜し続けるのだが、この街の住人は神に関することについては頑として語ろうとしない。果たして神の正体とは。殺人事件にどう関与しているのか。最後の最後に明らかになる真相はぜひ読んで確かめていただきたい。

 

現代社会の常識が通用しない世界

 この街では100年間誰も死んでいない。その真相は、大ケガをした者や心肺停止した者(通常の認識で死んだ者)はいわゆるコールドスリープ状態にされ、冷凍保存されるためだ。街の人曰くそれは死ではなく長い眠りに就いただけで、いつか治療が可能になった暁には再び目覚めることができると信じているのである。そのため、この街の住人にとって最も恐るべきことは(通常の認識での)死ではなく、眠りに就かせてもらえないことなのだ。従って、この街の住人にとって殺人は全く「割に合わない」のだ。つまりは、相手を殺しても長い眠りに就くだけで殺すことはできず、代わりに殺した側は罰として長い眠りに就く権利を奪われるかもしれないからだ。このことから、この街には警察や殺人を禁止する法律はないが、殺人などする者はいないと信じている。また、通常我々の感覚からすれば、殺人を犯した者は捕まえて罰しなければならないと考える者が多いだろうが、この街の住人からすればなぜそんなことをする必要があるのか、なぜ捕まえないとその者が続けて殺人を犯すと考えるのか理解できないのである。このように、この街では死や殺人に関する考え方が通常とは異なっており、そんな街で起きた殺人事件は困惑以外の何物でもなかった。何が正しいかは分からないが、普段当たり前と思っていることを再考察させてくれる機会を与えてくれるという点で貴重な体験となった。

 

 

③主人公の過去

 この物語は、過去に恋人を殺人犯に殺されており、自分も重傷を負わされていた。物語の序盤でその殺人犯がこの街に住んでいることを知り、主人公は強く動揺する。主人公は殺人犯を強く憎んでおり殺そうと考えていたが、再会した殺人犯はこちらのことを覚えておらず、改心しているようにさえ思えた。このことで主人公は悩んでいたが、物語後半で自体は動きだし、最終的に主人公は殺人犯を殺し復讐を果たすのだが、主人公が満たされることはなかった。また、物語最終盤では主人公の隠された秘密も明らかにされ、そのこと自体は謎解きとは関係はないのだが、読む者に驚きを与えてくれる。

 

 

 

 

~最後に~

最初に述べたとおり、本作品はミステリ要素は少ないのだが、現実を忘れさせてくれるような設定とストーリーである。ミステリ小説を読む方は少なからずその非現実性を楽しむ方も多いと思うので、きっとミステリ好きの方も楽しんでいただけることだろう。

*体調不良により更新が遅れて申し訳ありません。

 

 

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麻耶雄嵩著「さよなら神様」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは、麻耶雄嵩著「さよなら神様」である。本作は「神様ゲーム」に続く神様シリーズの2作目で、第15回本格ミステリ大賞を受賞した名作である。本日はその魅力を語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

俺、桑町淳のクラスメイトには自称・神様がいる。俺は彼が神様とは信じていないが何らかの特殊能力を持った人間だとは信じている。神様は全知全能で知らないことはなく、嘘もつかないと宣っている。そんな神様に俺は、周りで起きた殺人事件の犯人を聞かずにはいられないのだった。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①犯人は○○

本作は6編の連なる短編から構成されているが、その全てが、神様こと鈴木太郎が「犯人は○○だよ」と宣うところから始まる。神様の言うことは絶対に正しいのだから、犯人はこの時点で確定するのである(登場人物達がそれを信じるかどうかは別として。そしてそこから、俺と俺が所属する探偵団のメンバーが裏付けをしていくのだが、神様が犯人だと断定した人物には確固たるアリバイがあり、それを動崩すのかというのが本作の楽しみ方である。もちろん神様は全てを知っているのだが、主人公曰く悪意に満ちている神様はいつも犯人の名前しか教えてくれない。しかもその犯人の名前は主人公に関わりのある人たちばかりで、余計に神様が悪意に満ちていると感じるのである。読者としては、神様が宣った犯人は確定として推理していくのだが、アリバイトリックの真相は初心者でも分かりそうな簡単なものから、到底思いつかないような奇想天外なものまで様々。アリバイトリックと言っても、時刻表とにらめっこするようなものではなく、明確にして大胆な罠によるものなので、読者としても真相をスッキリ理解することが出来る。また、神様という絶対的な存在をうまく使ったトリックもあり、他の作品では見られない謎解きを楽しむことができる。

 

 

②主人公達の行く末

前述の通り、神様に殺人犯だと断定された者達は主人公の周りの人たちばかりである。当然、徐々に人間関係にヒビが入り、最後には血みどろのどろどろになってしまうのだが、おそらく神様はその事を分かっていて楽しんでいるのであろう。中盤、主人公の俺・桑町淳が実は女性だったという事が明かされ、物語は男女関係を巡るものへと変化していく。主人公が女だったが故に起こる軋轢や嫉妬が事件を巻き起こしていくのである。一時は学校に通えないほど心を傷つけられてしまう主人公だが、神様が学校を去り、時が経つにつれて明るさを取り戻す。しかしそんな幸せな彼女の前に再び神様は現れ、残酷な真実をちらつかせるのである。彼女がこの神様の呪縛から逃れられるかは実際に読んで見ていただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

~最後に~

本作は、短編集ということもあり短い時間で読みやすい作品になっている。また、通常の本格ミステリとも趣向が異なるため、普通の作品に飽きた方への変わり種としてもおすすめだ。読書の秋深まる今、ぜひお手に取ってみていただきたい。

 

 

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