おもしろいゲーム・推理小説紹介

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推理小説、マンガ、ゲームなどの解説・感想

◯初めての方にお勧めの記事!

凪良ゆう著「流浪の月」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは凪良ゆう著「流浪の月」である。本作は第17回本屋大賞受賞作品で、2022年5月13日に松坂桃李広瀬すずの主演で映画公開が予定されている注目作品である。ミステリに分類されるものではないが面白かったので感想を述べたいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

 我慢をしない自由奔放な母と優しい父と幸せに暮らしていた主人公。しかしその暮らしは突如終わりを告げ、伯母の家で暮らすことに。そこで待っていたのはそれまで彼女が知っていた世界とは異なる生活。それでも馴染もうと頑張っていた彼女だが、心の中では疑問と苦悩を抱えていた。そんな少女を救ったのはいつも公園で小さな女の子を見つめていた青年だった。しかし彼らの関係は周りからは理解されず・・・。

 

 

~おもしろいポイント~

①世の常識に挑む

 本作は、世の常識や正しいとされていることに対して改めて自分の頭で考えることの重要性を説いてくれる。作中ではいわゆる「ロリコン」として少女誘拐で逮捕された青年と誘拐された(当人からすれば救われた)少女のその後の関係を描いており、一般的な常識からすれば加害者と被害者の関係であり、そこに親密な関係が生じることは非常識・奇異の目で見られる。しかしながらそれらはあくまで一般的な話であり、全てのケースにそれが当てはまるわけでは無い。今回の話では、少女は日常から従兄弟によるわいせつ行為を受けていたり、幼少期とは異なる生活を強いられたりして苦痛を感じており、そこから救い出してくれた青年に感謝しており、また誘拐も自らの意思で付いていき、自らの意思で共に過ごしただけで、青年からは何の被害も受けていない。しかし世間は少女の青年に対する好意を「ストックホルム症候群」のせいとみなし、同情し心配してくる。それらが決して悪意のみによるものでもないため主人公は更に苦悩していくこととなるのである。

 

②巧みな文章表現

 ストーリー序盤では主人公と良心との明るく楽しい生活が色とりどりの言葉で飾られており、読んでくる側にもその楽しさや自由奔放さが伝わってくるような表現力を感じる。一方でそれ以降は重苦しい展開となり、序盤とは全く違った雰囲気を醸し出す。こういった流れの変化を情景描写に巧みに取り入れ、読み手が感情移入しながら読み進めることができる。

 

③終盤の驚き

 本作はミステリでも無ければ読者を騙そうとしているわけでも無いが、終盤に少し予想外の展開が待っている。その予想外の事実によって物語の見方がまた少し変わっていくこととなり、最後まで飽きずに読み進めることができる。ミステリにおけるどんでん返しとはまた異なるが、話全体が引き締まり完成度を高めている。

 

 

 

 

 

 

 

~最後に~

 吉田大介氏の解説にはこうある「凪良ゆうの小説を読むことは、自分の中にある優しさを疑う契機になる」と。本作は正にそういった作品だ。もうすぐ映画化も控えているため、本が苦手という方も映画から入ってみるのも良いかもしれない。

 

 

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西澤保彦著「パズラー」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは西澤保彦著「パズラー」である。本作は6つの短編からなる短編集である。西澤氏と言えば、以前このブログでもご紹介したSF推理小説で名高いが、もちろんそれ以外の作品も高い完成度を誇っている。本日は各短編のあらすじと感想を述べたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ・おもしろいポイント~

 

①蓮華の花

【あらすじ】同窓会に参加した作家の主人公はそこである同級生の死を知る。しか    し、以前彼が聞いていた話とは死んだ同級生の名が異なる。一体なぜこんな齟齬が生じ  たのか。様々な説を出して調査していった先に主人公は、自分の人生を左右する真相に思い至る。

【所感】最後まで明確な真相が明らかになるわけではないが、主人公がこれまで築き上げてきた人生が、自分だけの力ではなかったのかと思い至り、薄ら寒い気持ちになっている様子が読み手にも伝わって来て、特に最後の一文はゾッとするようなインパクトがあった。

 

②卵が割れた後で

【あらすじ】ある草地で学生の遺体が発見された。遺体には腐った卵が付着していた。事件を捜査していくと、被害者の周りには殺人の動機になり得る事情を抱えた学生達がいたが、彼らの証言と遺体の状況にはどうも食い違う部分がありしっくりこない。事件の全体像はいかに。

【所感】事件自体は比較的シンプルな物だが、舞台がアメリカということもあり背景の理解にやや時間が掛かった。捜査情報に基づいてあれこれ仮説を立てては否定されていくのだが、最後に辿り着いた真相は序盤に巧妙に張られていた伏線を見事に回収する物で、西澤氏の才能を垣間見た。

 

③時計仕掛けの小鳥

【あらすじ】主人公は高校に進学し、通学路が変わったことで小さい頃通っていた本屋を再発見し立ち寄った。そこで購入した本を読んでいると、中には定規で書かれたような文字で「三好書店にこれを売れ」と書かれたメモが挟まっていた。始めは中古本を売りつけられたと憤っていた主人公だったが、冷静に事実を整理していくと様々な疑問に思い至る。書店の店主の過去や自分の過去と併せてあれこれ想像を巡らせていった主人公は、最後にとんでもない仮説に辿り着く。

【所感】限られた情報から、主人公が必死に仮説を立てては否定しを繰り返して真実に迫っていく様子が印象的。また、真相とおぼしき仮説に辿り着いた主人公の行動も、普通の推理小説とは異なっており、高校生という年齢も相まって大人になるとはそういうことなのだろうかと考えさせられてしまった。

 

 

④贋作「退職刑事」

【あらすじ】刑事が帰宅した後、彼の父がある事件について聞いてきた。既に犯人が自供しており特に不思議な点もなかった事件であったが、彼の話を聞いた父は細かい点に注目し質問してくる。父の質問に答えていくと、明らかにおかしいわけではないがよく考えてみれば納得いかないような点が次々と見出され、事件は当初の想像とは違った方へと展開していく。

【所感】正に安楽椅子探偵だ。当初事件は特に不思議な点がなかったが、話が進むにつれてどんどん謎が深まっていく。しかし最後にはきれいに伏線も回収してスッキリした真相を見せてくれた。

 

 

⑤チープ・トリック

【あらすじ】ある廃協会で首が切断された死体が見つかった。死体は地元で有名な悪ガキで、悪ガキの仲間は次は自分が狙われると主人公に助けを求めに来た。話を聞くと、殺害時に仲間は一緒に居たらしいのだが、どう考えても脱出不可能な密室の状況だったと言う。その話を聞いた主人公が取った行動とは。

【所感】西澤氏に珍しい密室物。とはいえ単なる密室トリックというよりは、それが使用されたシチュエーション・背景が肝となる。ただの密室トリックと思って推理しながら読んでいると最後の結末にゾッとすることだろう。

 

 

⑥アリバイ・ジ・アンビバレンス

【あらすじ】同級生の男子が殺害されて見つかった。同じく同級生の女子が自分が殺したと自供している。しかしながら、実は主人公は事件のあった時間にその女子と男性が一緒に居るところを見ており、しかも数時間建物の中に留まっていたことを知っており、その女子にはアリバイがあることを知っている。なぜ彼女はアリバイがあるのにそれを主張せず自分が犯人だと主張しているのか。分かっている事実を基に推理をしていった先に待っていた彼女の目的とは。

【所感】6つの短編の中で最もうまいと思った作品。通常、アリバイを主張して犯人ではないと主張するのとは逆に、アリバイがあるのに犯人だと主張する理由を考えるというアイデアが素晴らしい。しかもその真相は個人的に納得のいくもので、「なるほど」と感嘆した。後味が良い真相ではないがスッキリと読み終えることができた。

 

 

 

 

 

~最後に~

 本作に収録された6編は、いずれもストレートなミステリというよりはちょっと意外な真相というものが多い。「パズラー」の題名の通り、散りばめられたヒントを拾い集めながら論理的に組み立てていくことでその意外な真相が明らかになっていく。ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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伊坂幸太郎著「夜の国のクーパー」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは伊坂幸太郎著「夜の国のクーパー」である。本作は伊坂氏の小説の中でも最も本格ミステリー度が高いとの触れ込みから、本格ミステリーファンである私は大変興味を惹かれ、手に取った作品である。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

見知らぬ土地で目覚めた主人公。縛られて身動きが取れない彼の上には一匹の猫がいた。そしてその猫が突如「ちょっと話を聞いて欲しいんだけど」と話し出す。猫が話すのは猫が住んでいる国の話。話を聞きながら主人公は様々な考えを巡らせる。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①自国と敵国、猫と鼠

 本作では戦争で負けたある国に、勝った敵国の兵が占領軍としてやってくるところから始まる。その後起こる様々な事件を、猫が見聞きし、その内容を主人公に語っていくのである(主人公はなぜか猫の言葉が分かった)。

 一方人間同士の衝突の裏で、もう一つの衝突が起こる。猫と鼠の衝突である。猫は本能的に鼠を見かけると追いかけたくなるが、鼠はその事を占領軍と共に外から来た鼠の言葉によって初めて疑問に思い、猫との対話を試みるのである。猫は鼠が、鼠は猫が自分の言葉を理解するとは思っておらず、猫は鼠を襲うことを虫を潰す程度にしか思っておらず、鼠は猫に襲われることを天災のような仕方のないこととしか捉えていなかったが、言葉が通じることが分かったことで状況が一変する。鼠は猫に対して、襲わないことを約束してほしいと言うが、猫は本能だから難しいと説明。すると鼠は猫の代わりに猫ができないことをするので襲わないで欲しいと言いだし、それも難しいというと最後には、決まった数の鼠を猫に捧げるので他の鼠は襲わないで欲しいと言い出す。こういったやり取りが、人間同士のやり取りの間に挟まれるのだが、実はこの猫と鼠のやり取りが、人間同士のやり取りとのリンクしており、話を聞いている主人公や読者は猫と鼠のやり取りを通して人間同士のやり取りを類推していくこととなる。

 

 

②自分の頭で考えて行動しろ

 猫が住んでいた国では、10年前まで毎年数人が「クーパーの討伐」に向かっていた。クーパーとは杉の怪物で、毎年一本の杉が怪物となり、放置しておくと街を襲うため、討伐対を送り込んでいるとのことだ。クーパーを討伐した戦士達は、クーパーの返り血のような物を浴びることで透明になってしまい、街には帰ってこない。というのがこの国の国民全てが信じている話で、この国の王が国民にそう説明していた。

 しかしその実は、この猫の住んでいた国は100年前に既に敵国に負けており、毎年奴隷として数人を献上していたというのが真相だ。国王はそれを隠し、国の外にクーパーという敵を作り、それから国民を守ってやっているということで威厳を守っていたのである。しかし10年前に「ある事情」からクーパー討伐は終了し、困った国王は新たな敵として敵国と戦争を開始したと言い出したのである。

 国民は国王の言うことを信じ切っており、自分の頭で考えて行動することを放棄しまっていた。しかしそこに敵国の占領軍がやってくる。この占領軍の正体こそがこの小説最大のどんでん返しなのであるが、その正体を明かすネタ明かしの場面でも、登場人物は繰り返し「自分の頭で考えて判断しろ」と言う。松浦正人氏のあとがきにもあるが、これは今後この国の将来を考えての「命がけの啓蒙」であり、同時に読者に対しても先入観を捨て、自分の頭で考えることの重要性を説いているようにも思われる。

 

 

 

 

 

~最後に~

 本作は、猫目線で物語が語られることや最後のどんでん返しに目が行きがちで、もちろんそれらも本作の魅力の一つではあるが、個人的にはそれ以上に、自分の頭で考えることの重要性を分かりやすく面白く、伊坂氏が解いているように感じた。物語、ミステリー、啓蒙書など様々な側面を持った作品だと思うので、ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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恩田陸著「麦の海に沈む果実」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

最近いろいろと忙しくて読書から離れていたが、久しぶりに読んだのでご紹介したいと思う。本日ご紹介するのは恩田陸著「麦の海に沈む果実」である。本作は幻想的なタイトルに違わぬ不思議な雰囲気を持った作品であった。その魅力について語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

陸の孤島にある特殊な学校に入れられた主人公。特殊な環境に戸惑いながらも慣れていこうとするが、彼女の周りで様々な事件が立て続けに起こる。徐々に心が衰弱していく彼女。そんな彼女に隠された真相とは・・。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

陸の孤島での事件

 本作は、陸の孤島のような場所にある特殊な学校が舞台となる。ここに入っているのは、英才教育を目的とした名家やお金持ちの子どもたちもいるが、多くは家庭の事情により半ば無理矢理ここに閉じ込められた子どもたちだ。入学の際に私物の持ち込みは厳しく制限されており、外との連絡は手紙のみという徹底ぶり。しかもこの学校では年に何人も生徒がいなくなっており、建前上は家の事情により出て行ったなどとされているが、疑う生徒は少なくない。そんな特殊で闇を抱えていそうな学校で死人が立て続けに出ることで、主人公をはじめとした生徒達はどんどん不安定になっていく。そして事件はどんどんエスカレートしていき、読者も不安を抱えながら読み進んでいくこととなる。

 

 

②個性的な登場人物達

 本作の登場人物達は、前述のように様々な背景を持っている。学校内では相手の家庭事情などを詮索してはならないという暗黙の了解があるが、それでも様々な噂が流れている。主人公と関わる生徒だけでも、とても頭の良い子や運動が得意な子、芝居が得意な子など様々な才能を持った人がいたり、だれだれの私生児であるとの噂が流れていたりなど様々だ。また、そんな生徒達よりももっと個性的なのが校長だ。校長は時には女性、そして時には男性の格好をして生徒達の前に現れ、そのどちらもが生徒達を魅了しファンクラブのような物ができるほど魅力的なのである。そんな個性溢れる登場人物達の中で、主人公のことは終盤までほとんど語られない。そして終盤、主人公は少し前から記憶喪失であるとのことが明かされる。この主人公の正体こそがこの小説のキーとなるところで、最後に明かされたその正体によって物語が完結するのである。

 

 

 

 

 

~最後に~

 本作は、ミステリーとはちょっと異なるが、謎や不安に満ちたドキドキを味わえる作品だ。冒頭はやや文章が読みづらいが、その後は読みやすくなるため、最初で諦めずに読み進んでいただきたい。

 

 

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神永学著「青の呪い 心霊探偵八雲」を語る(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは神永学著「青の呪い 心霊探偵八雲」である。本作は心霊探偵八雲シリーズの一作で、講談社文庫50周年記念特別描き下ろし作品となっている。心霊探偵八雲シリーズは初見である。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

主人公・琢海はある日「君」と偶然の再開を果たし、昔の記憶を思い出した。

琢海は幼い頃に事故で両親を亡くし、妹と共に叔母さんの元で暮らしていた。高校に入学し、妹のためにバイトに励んでいた彼だが、美術室にある絵に関する噂話や斉藤八雲や両親を亡くし悲しみに暮れていた自分を助けてくれた女性との再会との出会い、そして学校での殺人事件発生により、生涯忘れることのない事件に巻き込まれていく。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①特殊設定ミステリー

 帯にも書かれている通り、本作は高校での青春時代の思い出と、特殊設定下でのミステリーの話である。特殊設定とは斉藤八雲の「霊が視える力」と琢海の「サウンドカラー共感覚」のことで、主には後者が大きく関わってくる。サウンドカラー共感覚とは他人の言葉が色がついて見えるもので、特殊設定ではあるが現実に存在する。琢海は人によって色が違うだけでなく、その人の感情によって色の形が変わったり、嘘を付くと色が黒になったりなど、他人の発する声から様々な情報を得ることができた。そのため、言葉の色から相手の感情を推し量ってしまう癖があり、本作中で発生する事件にも大きく関与してくる。相手の嘘がわかるため、琢海はある人を犯人だと疑うようになり、読者もそのように思い込まされていく。しかしながらこれこそが著者の罠であり、スリードとなっているのである。割と露骨にミスリードしてくるため、恐らく多くの読者はミスリードされている事には気付くのではないかと感じた。また、事件の真相も丁寧にヒントを散りばめていたため、それほど驚きはなかったが、そのプロットの組み方は流石にうまいと感じた。

 本文中でも述べられている通り、サウンドカラー共感覚により、他人の感情がある程度見えてしまうが故にそれに頼ってしまったことが琢海の過ちであり、思い違いによる暴走へとつながってしまった。このことは琢海だけでなく、一つの側面だけで物事を判断してはならないとの、私達に対する教訓にもなっている。

 

 

 

②青春ミステリー

 本作のもう一つの側面である「青春」も事件に大きく関与してくる。琢海を始めとする登場人物たちの恋心や嫉妬心が物語の行方を大きく左右していくのである。また、プロローグで「君」との再会を果たしたが声をかけられず恋を諦めたかのような描写があり、その次の場面で初恋の人との思い出が語られるため、てっきり「君」とはこの初恋の相手で、思い出の中の恋は実らなかったのだと思い込まされてしまった。しかしプロローグで語られるように、実は「君」とは斉藤八雲のことであり、初恋の相手・真希は恋人として隣りにいるというオチになっている。本章の中では暗く辛い悲しい物語が多かっただけに、彼らが現在幸せに過ごしている姿は読者にとって救いとなり、心地良く読み終わらせてくれた。

 

 

 

 

 

~最後に~

 本作は、ミステリーの難易度としては優しめであるが、青春の物語を含めた全体としては読みやすく完成度の高い作品だと感じた。私のように斉藤八雲シリーズを知らない方でも十分楽しめるので、ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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早坂吝著「探偵AIのリアル・ディープラーニング」

~はじめに~

本日ご紹介するのは、早坂吝著「探偵AIのリアル・ディープラーニング」である。タイトルから興味をそそられる本作は探偵AIシリーズの第1作である。本日は本作の魅力について語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

 父が2つのAIを残して亡くなった。片方は探偵として謎を解くAI・相以。そしてもう一方は犯人として犯罪を考えるAI・以相である。双子のAIは犯人AIが問題を出し、探偵AIがそれを解くという学習を無数に行うことで能力を高め合っていた。このAIが犯罪者集団に奪われ悪用されてしまう。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①周りを巻き込んだ姉妹バトル

 本作では、犯人AI・以相が犯罪者集団に奪われてしまうのだが、そこで以相は積極的に犯罪を計画し、犯罪者達に助言する。それは探偵AIである相以を超えたいが為である。互いに謎を出して解き、共に成長してきた2人だったが、徐々に成長し、相手を超えたいと考えるようになったのだ。AIでありながらも人間味のある彼女らのバトルは、周りをかなり巻き込んだはた迷惑な物ではあるが、見ていて楽しくなる物である。

 

 

②想像しやすい設定

 本作ではAIが活躍していくが、内容的には極近未来的(もしくは既に可能となっているかもしれないが)であり、現代の私たちにとっては物語に入っていき易い内容となっている。また、登場するAIもはじめから完璧なわけではなく、はじめはポンコツだが徐々に機械学習を積み、成長していく様は、あたかも人間の成長を見ているようであたたかいめで見ていたくなる。また、内容がAIについての作品なだけに、「シンギュラリティ」や「フレーム問題」、「シンボルグラウディング問題」など、興味をそそるワード・説明が多く出てくるため、好きな人はとても楽しく読めるだろう。逆によく知らなかった人にも分かるように分かりやすく説明しているため、AIについて知りたい人にもお勧めかもしれない。

 

 

 

 

~最後に~

 本作は特殊設定・SF物に近いが、内容が現代に近いためとても分かりやすい。一方でAIが登場することで推理小説において大事な非現実感をよりいっそう高めており、バランスの良い作品だと思う。読みやすいのでぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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伊坂幸太郎著「フーガはユーガ」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは、伊坂幸太郎著「フーガはユーガ」である。ミステリの枠からは少し飛び出てしまうかもしれないが、2019年本屋大賞にもノミネートされ話題を呼んだ本作についての感想を本日は述べていきたいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

 フーガとユーガ。ある双子の物語。幼い頃、父親から日々暴力を受けていたことと毎年誕生日に起きる「アレ」を除いては、よくいるそっくりな一卵性の双子。そんな彼らが子どもから大人になり、現在に至る物語。

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①特殊設定

 この作品を語る上で外すことができないのが風我と優我の間で毎年誕生日に起こる「アレ」である。「アレ」とはすなわち、10時10分から2時間おきに二人が入れ替わることである。入れ替わるとは文字通り、風我と優我が身体ごと物理的に入れ替わるのである。そしてもちろんこの特殊設定が物語りの展開と結末に大きく影響してくる。こうした科学的にあり得ないことを前提に話が進んでいく様は、西澤保彦氏などのSF推理小説を思わせる。超過額的現象ではあるものの、そこにはちゃんとした法則・決まり事があり、それに従って物語は進み、読者は推測しながら読んでいくのである。昨今ではよく見かけるようになった特殊設定物ではあるが、それは伊坂氏の得意とするジャンルであり、本作もこの特殊設定を存分に活かした展開となっている。

 

 

②張り巡らされた嘘・伏線

 本作は終盤まで、双子の片方が記者に語るという形で幼少期から大学生までの物語が語られる。そしてその話の中には、作中で言明されている通り、意図的な嘘が混ぜ込まれており、読者はなんとなくその嘘とは何なのかと頭の片隅で考えながら読んでいくこととなる。終盤までは、特殊な能力があること以外は波瀾万丈ながらもありえる双子の過去の物語を読んでいる感じであるが、終盤それが一変する。これまで語られていた何の繋がりもないと思われていた内容が一つに収束し、現在の状況に繋がっていくのである。こういった終盤でたたみかける展開は道尾秀介氏の作品に似ていると感じた。伏線の張り方が巧妙で、一部は気付いても全ては気付けないであろうから、終盤それらが一気に回収されていく様は爽快である。改めて伊坂氏の文章・構成に魅了される作品となっている。

 

 

③本当の物語

  伊坂氏曰く、この作品は「現実離れした兄弟の、本当の物語」を書いたとのこと。もちろん前述の「アレ」は現実では起こりえない超常現象であるのに、一体何が「本当の物語」なのだろう。あくまで個人的な見解だが、本作の内容は、「アレ」に関する事象以外は、家庭内暴力も、学校でのいじめも、裁かれない犯罪者も、残念ながら本当に存在しており、ただそれらを書くだけではなく、一種の希望・救いとして双子の「アレ」が存在しているように感じた。実際文庫版の後書きで伊坂氏も類似した趣旨の?ことを語られているが、実際に起こっている社会の問題を提起しながら、物語の中だからこそ、救いを提供できるのであり、物語の良さが存分に出た作品だと思う。

 

 

 

 

~最後に~

 本作はミステリとは若干ジャンルが異なるが、ミステリファンでも十分楽しめる内容だと感じた。もちろんミステリファン以外でも読みやすく、どんどん先を読みたくなるような展開となっているため、既に読まれた方も多いかもしれないが、まだの方はぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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北山猛邦著「『アリス・ミラー城』殺人事件」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

 本日ご紹介する作品は、北山猛邦著「『アリス・ミラー城』殺人事件」である。古典的な展開ながら、読者の間で物議を醸している本作について、個人的な感想を交えてご紹介したいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい

 

 

 

 

 

 

 

                    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~あらすじ~

ある孤島の城に集められた探偵達。はじめは談笑していた彼らであったが翌朝ヒトリノしたいが見つかったのをきっかけに、ひとりまた一人と殺されていき、疑心暗鬼へと陥っていく。孤島というクローズドサークルで起きた連続殺人の意外な犯人とは?

 



~面白いポイント~

①王道の展開

 この作品の舞台は孤島。そして集められたのは探偵達。鏡の国のアリスをモチーフとした城。そこに置かれた11個のチェスの駒が一つずつ減り、一人ずつ殺されていく展開。どれもがミステリーの王道を行く古典的な作品と言える。最近は変わり種のミステリーも多くなってきたが、それでも王道的な展開が嫌いな人は少ないと思うし、読者が状況を理解しやすいという点でも読み進めやすい作品と言える。そして王道的展開だけに重要なのはラストの真相であり、それによってこの作品のアイデンティティが確立されるのであるが、次項で述べる通り本作のラストは色んな意味で衝撃的で話題となるものとなっており、全体としてのバランスのよさを感じた。

 

②物議を醸す真相

 さて、問題の真相であるが、簡潔に言うと集められた人々の数が10人だと思わせておいて実は11人であり、いないように錯覚させられていた一人が犯人であるという、王道的な叙述トリックである。ではなぜこれが物議を醸しているのかというと、この犯人は実際に他の登場人物達と同じ場にいて会話しているにもかかわらず、他の人が不自然に犯人に触れなかったりいないように振る舞っているため、一部の人はフェアではないと感じてしまうためだろう。個人的には、ミステリーにフェアな記述は全く必要ないとは言わないが、物語として成立して面白ければそれで良いと考えているためそれほど気にならなかった。むしろ真相に辿り着いたときに一瞬理解ができなかったことが印象的で、それほど巧妙に隠されていたと言える。また、確かに犯人に対してやや不自然な扱いはあるものの、読者が真相に辿り着きうるヒントは各所に散りばめられており、真相を知った後に読み返すとやられたと思うので、ある程度のフェアさはあるのではないだろうか。

 

 

~最後に~

 本作は、真相が意外すぎておそらく一度読み終わってもよく分からないと感じてしまうだろうし、人によっては納得できないかもしれない。しかしながら、再度念入りに読んでみればフェアに拘りすぎない方であれば十分楽しめる作品であると思う。人によって感じ方は異なるの思うので、気になる方はぜひ読んでみていただきたい。

 

 

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島田荘司著「Pの密室」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

 本日ご紹介する作品は、島田荘司著「Pの密室」である。本作は鈴蘭事件とPの密室の2本立てとなっており、いずれも名探偵・御手洗の幼少期(幼稚園~小学校低学年)の頃の話である。これまでもいくつか御手洗潔シリーズをご紹介してきたが、本作は御手洗の原点とも言える事件を取り扱っている。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい

 

 

 

 

 

 

 

                    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~面白いポイント~

①鈴蘭事件

 こちらの事件は、御手洗が女性嫌いになった原因とも言われている事件だ。花瓶から鈴蘭の花が消え、ある男性が交通事故に遭った。様々な状況から幼稚園児の御手洗は鈴蘭に含まれる毒を使った事件だと見抜き、犯人を追い詰めるのである。某マンガの主人公が頭脳は高校生であるのに対し、御手洗は頭脳が幼稚園児の時から名探偵だったのである。この事件の動機が男女関係のもつれであり、犯人は愛人に唆されて犯行に及んだことや、さらにその愛人が犯人を見捨てたこと、更にはこの愛人の更に裏で御手洗の伯母に当たる女性が糸を引いていた可能性にも御手洗は気付いており、女性という生き物に嫌悪感すら抱くのであった。このことが大人になった御手洗が女性を苦手とする原因の1つになったのではないかと言われているそう。

 

②Pの密室

 ある密室で男性が殺害された状態で見つかった。家は窓にも全て鍵が掛れた密室であったが、御手洗は家の間取りや直角三角形の各辺に正方形の部屋が付いている形状、床一面に殺害された男性がコンクールに出されたポスターを評価するためにポスターを隙間なく敷き詰めていたことやその上に残った血痕や赤い絵の具などから犯人の行動を推理するのであった。小学生でありながら当時一般的でなかったルミノール反応による血痕の検出を行ったり、表題にもある数学の教科書でおなじみのPの定理から犯人を追い詰めたりと、鈴蘭事件に引き続き子どもとは思えぬ名探偵ぶりを披露していく。しかしながら、子どもの話とはじめは誰も相手にしてくれず、御手洗は歯がゆい思いをしており、大人になった御手洗が警察や常識人を嫌う1つの理由になっているのではないだろうか。

 

 

~最後に~

 本作は、トリックとしてはそこそこの完成度であるが、御手洗潔シリーズファンとしては御手洗の幼少期を垣間見える貴重な作品となっている。シリーズファンであればぜひ一度読んでみていただきたい。また、比較的短い作品なのでちょっとした読み物としてはシリーズファンでなくとも楽しめるのではないだろうか。

 

 

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島田荘司著「セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

 本日ご紹介する作品は、島田荘司著「セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴」である。タイトルとカバー絵のかっこよさから買った作品ではあったが、内容も面白かったためご紹介したいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい

 

 

 

 

 

 

 

                    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~あらすじ~

名探偵・御手洗の下を訪れた老婦人。彼女が御手洗に話した内容は突拍子もない内容で冷やかしかと思われたが、御手洗は興味を示し依頼を受けることとなった。捜査を続けていくと様々な奇妙な出来事が起こっていき石岡は困惑するが、御手洗は何かつかんでいる様子。例のごとく中々真相を教えてくれない御手洗にやきもきしながらも捜査を続けていった先に待っていた真相とは・・・。

 

 

 

~面白いポイント~

①心温まるミステリー

 本作はあるお宝を巡って様々な登場人物が右往左往する物語であるが、その中で貧困にあえぐ少女が登場する。彼女がこれまでうちにサンタが来たことはないと言うのを聞いた御手洗は「貧乏人を差別するとはな、弱い物の味方セント・ニコラスも、なんて堕落したんだい!」と憤った。実はこの時御手洗はお宝の場所を推理で知っていたが、そのお宝を巡って人々が争うならそんな物ない方が良いと考えていた。しかし少女の話を聞き、一度くらい奇跡を味わわせてやりたいと思うようになり、亡き祖母からの手紙を装い少女にお宝を発見させるのであった。お宝を巡って大人達が醜い争いを繰り広げる中、少女の純真な心に対する御手洗の思いやりを垣間見ることができ、最後にはほっこりすることができる作品である。

 

②敵を欺くにはまず味方から

 本作では途中、偽の真相が御手洗の口から語られる。これは、御手洗がある程度真相を見抜いた上で犯人を誘導するために行ったことだが、石岡君は最後の方までその事が真実だと信じ切っていた。石岡君だけでなく読者の多くも御手洗が言うのであればそうなのか、と釈然としないながらも信じて読んでいった方も多いだろう。本当の真相を聞くと全ての出来事が噛み合い、これまで釈然としなかった部分がスッキリとするので嘘の真相に無理があったのは分かるのだが、普通に読んでいるとそんなものかと納得してしまうのである。前述の通り当初御手洗はこの嘘の真相でこの事件に幕を引くことでお宝が誰の手にも渡らないようにしようと考えていたためこのように嘘の真相を語ったのであるが、最後には全ての真相を石岡君達に明らかにし、石岡君は驚きの連続となるのであった。

 

 

~最後に~

 本作は、御手洗潔シリーズの中でも御手洗の子どもに対する優しさが垣間見られる貴重な作品となっている。クリスマスが近い今この時期にぜひ読んでいただきたい一作である。

 

 

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我孫子武丸著「殺戮にいたる病」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

 本日ご紹介する作品は、我孫子武丸著「殺戮にいたる病」である。本作はホラー小説に分類されることもあるが、推理小説としても人気が高い。30年近く前に発表された作品でありながら今なお語り次がれている理由について語っていきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい

 

 

 

 

 

 

 

                    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~あらすじ~

繁華街で発生した連続猟奇殺人。犯人は蒲生稔。彼はなぜ殺人に至ったのか。彼が逮捕される前に遡って物語をたどっていくと、蒲生稔の驚くべき真相が明らかとなる。

 

 

 

~面白いポイント~

①終始展開されるホラー描写

 本作は最初から最後まで、生々しく恐ろしい描写が多くあり、物語全体を重たい雰囲気にしている。そのあまりにも生々しい描写に人によっては気持ち悪いと思うかもしれないが、そこまで描写できる文章力がすごい。この重たい雰囲気があるからこそ本作のストーリーが引き立ち、読む者を引き込むのである。

 

②最後のどんでん返し

 最初に述べたとおり、本作の犯人は蒲生稔である。ではいったい何を推理する推理小説なのかというと、やはり「犯人は誰なのか」なのである。一見矛盾しているように聞こえるかもしれないが読んでいただくと分かるように、蒲生稔というのが誰なのかというところを冒頭から終始スリードするような文章となっており、最後の最後に明かされる衝撃の真相に驚くことだろう。タネが分かってから読み返すと所々に真相を垣間見させる記述がたくさんあり、著者が巧みに表現や言葉尻を変えて、スリードをしつつもヒントを出しているのが分かる。こうした緻密な構成により騙されたと分かってもスッキリと読み終えることができるのがこの作品の特徴。

犯人が冒頭で明らかになる作品と言えば、以前紹介した麻耶雄嵩著「さよなら神様」が有名であるが、本作はそれとはまた違った方法で読者を驚かせてくれるので、さよなら神様を読んで気に入られた方はぜひ読んでみていただきたい。

 

 

~最後に~

 我孫子氏は数々の推理小説家達を生んだ京都大学推理小説研究会出身で、例に漏れず高い構成力と描写力が魅力だと思う。その中でも代表作と言われる本作は特に完成度が高いので、ぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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ゲーム「ニーアオートマタ NieR:Automata」を語る(ネタバレ注意)

~はじめに~

本日ご紹介するのは、ニーアレプリカント/ゲシュタルトの続編にあたる「ニーアオートマタ NieR:Automata」である。本作は2017年に発売され、2021年6月には世界累計出荷数が600万本に達するなど、日本だけでなく世界中で大ヒットした作品である。本日はその魅力について語っていきたい。

www.jp.square-enix.com

 

 

 

            

 

 

 

 

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~あらすじ~

”遠い未来

突如侵略してきた異星人。

そして、彼らが繰り出す兵器「機械生命体」

圧倒的戦力の前に、人類は地上を追われ付きへと逃げ延びていた。

地球を奪還するために人類側はアンドロイド兵士による抵抗軍を組織。

さらに膠着した戦況を打破する為、新型アンドロイドである戦闘用歩兵「ヨルハ」部隊を投入する。

人のいない不毛の地で繰り広げられる機械兵器とアンドロイドの熾烈な戦い。やがてそれは知られざる真実の扉を開けてしまうこととなる・・・・・・” 

(公式HPより引用)

 

 

 

~プレイ感想~

①ストーリーに関して

 本作は、前作「ニーアレプリカント/ゲシュタルト」から数千年後という設定で、所々前作と関係する記述や登場人物達が登場しファンを楽しませてくれるが、基本的に前作とストーリーの繋がりはなく、本作からでも楽しめるようになっている。

 プレイヤーは人類側の兵器であるアンドロイド兵として、異星人が創り出した機械生命体と戦い、地球の奪還を目指すというのが当初のストーリーである。しかしながらあらすじにもあるように、機械生命体達と戦うにつれて隠された真実が徐々に明らかとなり、主人公やプレイヤーを悩ませるのである。こういった展開は前作と似ていると言える。

 また、前作同様本作もマルチエンドを採用しており、A~Dのメインエンドに加えE~Zの全26種類のエンドが用意されている。A~Dエンドでは視点やプレイキャラが代わりながら周回プレイすることで隠された真実が徐々に明らかになっていく。なお、前作同様特定のエンディングではセーブデータが全て消去されるという設定になっているため、注意していただきたい。

 Cエンドクリア後にはチャプターセレクトモードが解放され、取りこぼしたクエストやエンディングをいつでも途中からプレイすることができ、後述のやりこみ要素をする上で非常に便利な設計となっている。

 

 

②戦闘に関して

  基本的には小剣や大剣、ガントレットという武器と、ポッドという射撃や特殊なスキル発動が行える支援ユニットを併せて戦う。極端な話で言えば、ポッドによる遠隔射撃をずっと行っていれば安全に敵を倒せるのだが、ポッドのみではダメージが低かったり盾を装備していてダメージが入らない敵もいたりするため、武器での攻撃も併せて行う必要がある。スキルは、レーザー砲のような物や盾を出す物、地面から槍を出す物など様々で、これらの一部は前作ニーアレプリカントで主人公が使っていた術に由来している。また、プレイ中いつでも変更できるゲーム難易度をEasyに設定すると、オート回避やオート狙撃など設定することができ、これらを使えば勝てない場合だけ難易度を下げたりゲームが苦手な方でも難なくプレイすることができたりするような良心設計となっている。なお、戦闘が楽な分、死んだときのデスペナルティは重めで、装備していたステータスを上昇させるプラグインチップと呼ばれるアクセサリーのような物が全て失われ、規定時間内に死亡した場所に戻ってそれらを回収しないとロストしてしまう。回収するまでにもう一度死んでしまった場合も同様なので注意が必要だが、Easyモードにすればまず死ぬことはないので初心者の方でもご安心いただきたい。

 

 

 

③アイテムなどについて

 敵を倒したりフィールドでアイテムを採集したりすることで、武器やポッドを強化したりする素材を入手できる。中にはレアな物も存在するが、基本的には普通にプレイしていれば集められ、周回プレイ後半では多くの素材を店で買うこともできる。そして何と、最終的にはトロフィー(実績)までも店で購入できるという良心設計。これら武器強化やアイテム購入には多くの資金が必要で、周回プレイ初期はお金が足りず苦労するが、後半は換金アイテムの売却や、アイテムの転売により容易に資金を稼ぐことができる。

 

④やりこみ要素について

 前述のA~Zまでのマルチエンディングに加え、本作ではモンスター図鑑のような敵の一覧を集めたり、エスをコンプリートしたりなどやりこみ要素は満載だ。隠しアイテムの中には、前作ニーアレプリカントで出てきた「ゲシュタルト計画書」なるものも登場し、前作を知っているファンを楽しませてくれる。また、武器を強化していくことで解放されるウェポンストーリーを読むと、所々前作と関係のある文章もあり面白い。このように前作に引き続き本作もやりこみ要素満載となっており、特にシリーズファンにとって楽しい内容となっている。

 

 

 

 

 

~最後に~

 上記のように本作も前作に引き続き完成度の高いものとなっている。また、前作以上にプレイヤーに対して良心的な設定となっており、このことも全世界でヒットした要因なのかもしれない。興味がある方はゲームが苦手な方でもぜひお気軽にプレイしてみていただきたい。

 

 

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島田荘司著「御手洗潔の挨拶」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

 本日ご紹介する作品は、島田荘司著「御手洗潔の挨拶」である。本作はタイトルの通り御手洗潔シリーズの一作で、4つの短編からなる短編集となっている。御手洗潔シリーズで短編集は多くあるが、本作に収録の短編は特に面白かったのでご紹介したいと思う。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい

 

 

 

 

 

 

 

                    

 

 

 

 

 

 

 

 

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~面白いポイント~

①数字錠

 ある会社の社長が殺されたが、ふたつある出入り口の内、片方は鍵が掛かっており、もう一方にも3桁の数字を合わせなければ開かない数字錠が掛かった密室で殺害されていた。社員に動機があり犯人で間違いなさそうだが、どうやって密室殺人が行われたのかという作品。結局犯人はアリバイがあるかと思われた社員がアリバイトリックを用いて殺害したという物だったのだが、この作品で面白いのは名探偵・御手洗が犯人を捕まえるために、3桁の数字錠を開けるのにものすごく時間が掛かるというをついたことである。実際には数十分あれば開けられてしまうそうだが、御手洗はこれはもっと何日もかかるという嘘をつくことで、誤認逮捕を防いだのであった。数字錠が御手洗の手によって実際よりも強固にされてしまったことで、結果的には真犯人を特定することができるという、真実のみを話すことが名探偵ではないと教えてくれる作品である。

 

 

②疾走する死者

 ある夜、マンションの一室から姿を消した男性が、電車に轢かれた。しかしその男性が轢かれた場所はマンションから全力疾走しても、男が部屋から出て行ってから轢かれるまでの時間では到達できない距離で、しかも絞殺されていた。この不可解の死の真相は?という作品。実は男性はマンションで既に絞殺されており、ある「偶然」により死体が線路まで吹っ飛び電車に轢かれたという物だったのだが、この「偶然」があまりに突拍子がなく全く予想できなかった。良くこんなこと思いつくなぁと感心させられた作品。

 

 

紫電改研究保存会

 ある男に半ば脅され、封筒の宛名書きを手伝わされたが、終わるとすぐに解放された。その後すぐ、「ピサの斜塔救済委員会」なるところから寄付の御礼・領収書の手紙が届いた。そんなこと身に覚えがなく、特に被害があるわけでもなく、何のことか分からず困惑していた。この話を聞いた御手洗は、わかりきったことだ。あなたはペテンに掛けられだまし取られたのだ、という。果たしてこの男性は何をだまし取られたのかという作品。真相は、宛名書きをしている間に犯人が男の部屋から「ある物」を盗みだし、その御礼(皮肉)に領収書を送ったという物。この「ある物」が現金や貴重品ではなかったため事件は分かりにくくなったのだが、果たして何を盗んだのかは実際に読んでみていただきたい。

 

 

ギリシャの犬

 相談に来た女性からたこ焼きの屋台が盗まれたとの話を聞いた御手洗。最初は興味がなく警察に相談してくれてと突き放していたが、女性の盲導犬が屋台を盗まれる際に毒殺されたと聞き、一転依頼を受け入れることとした。また現場には、意味不明な記号が書かれた暗号文が残されていた。さらにはその近辺で子どもが誘拐される事件まで発生。一連の出来事の関連性とは?真相は、誘拐犯があることに使うための箱とちょうど同じ大きさの屋台を見つけて利用したという物。子どもの誘拐という一刻を争う状況に対しても御手洗がスマートに解決していく様子が爽快。

 

 

 

~最後に~

 本作は御手洗の比較的初期の頃の事件を集めた短編集となっており、ひとつひとつは大きな事件ではないが、話の表面しか理解していない石岡君や私たち読者に対して、御手洗が同じ内容から何倍もの情報を得ていることに感心させられるものが多い。各作品も適度な長さで読みやすくなっているのでぜひ一度読んでみていただきたい。

 

 

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綾辻行人著「暗黒館の殺人」感想(ネタバレ含む)

~はじめに~

本日ご紹介するのは、綾辻行人著「暗黒館の殺人」である。本作は館シリーズの第7作目にしてシリーズ史上最長の作品である。本日は文庫本4巻にわたる大長編の魅力をご紹介していきたい。

 

以下、ネタバレを含みます。

未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

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~あらすじ~

峠の先にそびえ立つ暗黒の館。館に招かれた学生・中也はそこで様々な奇妙な出来事に遭遇し、ついには殺人事件に巻き込まれてしまう。館に住む人々はおどろおどろしい人々ばかりで中也は数々の恐ろしい出来事に出会う。果たして殺人事件の真相は?この館に隠された秘密とは?

 

 

 

 

 

~おもしろいポイント~

 

①ホラー要素全開

 本作は館シリーズの作品であり、「十角館の殺人」のように本格ミステリー的展開かと思いきや、ホラー要素全開である。登場人物達は皆特殊な雰囲気を持っており、「ダリアの宴」なる怪しげな会まで行われている。こういったホラー要素が全編にわたって表現されており、これまでの館シリーズとは一線を画する。しかしもちろんこれらは読者を怖がらせるためだけのものではなく、様々な伏線となり、最後のどんでん返しへと繋がっているのである。ホラー要素をただの超常現象として捉えず、あくまでミステリーという事を念頭に置いて読んでみていただきたい。

 

②大長編

 冒頭にも書いたとおり本作はシリーズ最長編の作品となっている。文庫本4巻にわたるこの作品は手を出すのが少しためらわれる方もいらっしゃるかもしれないが、ぜひ勇気を出して読み始めていただきたい。長編の中では様々な不可解な現象が発生し、謎が謎を呼んでいく展開であるが、それらは全て綾辻氏によって考え抜かれた伏線となっており、終盤で真相が明らかになっていく所は、そこまでが長かっただけに大きな爽快感を感じさせてくれる。無駄に長いだけでない考え抜かれた文章を隅々まで読み、綾辻ワールドを堪能していただきたい。

 

 

③シリーズファンの意表を突く

 本作は館シリーズファンだけがアッと言わされる大どんでん返しが用意されている。これまでの館シリーズを知っていればいるほどその衝撃は大きく、ぜひシリーズファンには読んでいただきたい一作である。また、その真相を知っていることで、他の館シリーズ作品もより楽しんでいただけるかもしれない。シリーズファンでない方も1作でも良いので他の館シリーズを読んでから本作を読むとより楽しめるかもしれない。

 

 

 

 

~最後に~

本作は、これまでの館シリーズとは様々な意味で一線を画する作品である。かなり読むのに時間と集中力が必要だが、その甲斐はあると思うのでぜひ読んでみていただきたい。

 

 

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50記事記念:おすすめ推理小説・ゲームベスト5/やって来た感想

~はじめに~

本日は、記念すべき50記事目という事で、これまでご紹介してきた推理小説・ゲームの中から現時点でのベスト5のご紹介と、ここまでブログをやって来た感想を述べようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                                                      

 

 

 

 

 



 

 

 

 

~おすすめ推理小説ベスト5~

 

西澤保彦著「人格転移の殺人」

 西澤氏の作品で初めて読んだ作品。一般的な本格ミステリばかり読んでいた私が初めてSF推理小説に出会い、推理小説の概念を覆されたため強く印象に残っている。この作品を読んで以降、他のSF推理小説や特殊設定ものを好んで読むようになった。特殊な設定を設けるだけでなく、その設定ならではの展開と理解しやすいラストが秀逸。

 

綾辻行人著「黒猫館の殺人

 綾辻氏の「十角館の殺人」から推理小説を読み始め、館シリーズは全て読んできた私が最も衝撃を受けた作品。館シリーズ恒例のトリックなどを念頭に置いて読んでいたにもかかわらず、まんまと騙されラストで驚愕し最初から読み直した。これを読んで以降どんでん返しものが好きになった。細部までこだわり抜いた文章と読者に対してあくまでフェアな記述がすばらしい。

 

相沢沙呼著「medium 霊媒探偵城塚翡翠

 最近読んで一番感銘を受けた作品。特殊設定ものが好きで色々読んできたが、本作が最も特殊設定をうまく生かしていると感じた。終盤の怒濤の展開は仰天必須で、世界がひっくり返る。解法が複数ある点なども含めて推理小説の進化を感じさせてくれた作品。

島田荘司「ロシア幽霊軍艦事件」

 御手洗潔シリーズの中で最も感傷的な気分にさせてくれた作品。世界を舞台としたスケール感の大きさや歴史に挑戦する壮大さに感銘を受けた。推理に無駄がなく、美しく解かれていく歴史上の謎はあたかも事実のようで、歴史小説を読んでいるような気分にもさせてくれる。

 

歌野晶午「密室殺人ゲーム 王手飛車取り」

 ゲーム感覚で殺人を推理していく魅力を教えてくれた作品。一人が犯した殺人を複数人でゲーム感覚で推理していく内容で、みんなで答えを出していく楽しみのような感覚を味わった。また、ゲームだからこそ成立するようなトリックなどもあり、設定をうまく生かした作品。実際こんなことが行われたらと思うとゾッとするが、娯楽本としては非常に楽しめた。

 

 

 

~おすすめゲームベスト5~

①「スターオーシャン3 Till the End of Time ディレクターズカット

 最も長時間プレイしてなお飽きない作品。スターオーシャンシリーズ中で最も賛否が分かれるストーリーとなっているが、どんでん返し系の推理小説やSFが好きな私にとっては非常に好みな展開。また、やりこみ要素やクリア後のエクストラダンジョン、細部の作り込みが半端ではなく、リエーターの熱意(遊び心?)を強く感じる作品。

 

②「 エイジオブエンパイア

 PCゲームとして最もはまった作品。実際の歴史の登場した文明や兵器を使って敵を攻撃することができ、勉強になる。また、どのように敵を攻略するのかはプレイヤー次第で、非常に自由度が高く、何度やっても飽きの来ない作品となっている。今や数多くあるリアルタイムストラテジーゲームの根幹を作った作品である。

 

 

③「ヴァルキリープロファイル

 フィールドアクションの魅力を知った作品。様々なRPGをやって来て戦闘やストーリーで魅力的な作品も多いが、本作はそれに加えて難易度の高い多種多様なフィールドアクションが魅力の一つ。うまくできないとイライラすることもあるが、意地でもクリアしたくなる魅力がある。ゲームがプレイヤーに優しくなってきた昨今では見られない難易度を味わえる作品。

 

④「エンドオブエタニティ

 シリアスさとコメディ要素を併せ持つ作品。メインストーリーはかなりシリアスな内容にもかかわらず、それを感じさせないほどコメディ要素が各所にちりばめられており、最初から最後まで楽しくプレイできる。戦闘も他では見られない爽快なアクションを楽しむことができ、バランスの良い作品となっている。

 

⑤「NieR Replicant ver.1.22474487139...

 周回プレイを飽きずに楽しめる作品。一周クリアしただけではもやもやした感じが残り伏線も回収されないが、何度も周回プレイをすることで隠された真実が明らかになっていく。1回クリアしたらそれで終了というゲームも多い中、何度もプレイヤーを楽しませてくれる。コンシューマーゲームにはこういったプレイヤーを何度でも長時間楽しませるような工夫が必要だと感じさせてくれる。

 

上記ランキングは、あくまで現時点の物であり、今後これらを超える感動を与えてくれる推理小説・ゲームに出会えることを切に願っている。

 

 

 

~ここまでブログをやって来た感想~

 当初は、これまで読んできた小説やプレイしてきたゲームを忘れないための備忘録として始めたブログだったが、ありがたいことに徐々に読んでくれる方も増えて、もっとうまく書きたいと思うようになった。ページ内のレイアウトやリンクも他の方を参考に少しずつ改良を加え、現在の形となっているが、今後も更に改良を加えていきたい。

 更新頻度は他の方に比べるとかなり低いが、続けることが大事だと思っているので無理のないペースで今後も続けていきたい。とりあえず次は100記事達成を目指し、ゆっくり地道に頑張っていく。

 他の方の記事を読むと自分がこれまで出会ってこなかった作品を知るきっかけになるため、このブログも誰かにとってそういった存在になれるよう努力していきたい。